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 時々、心が世界から離れてしまっている事がある。  ふっと戻ってきたところで、体を電車の音が包み込んだ。  遅れてじぃんとやって来る足の痛み。パンプスを押し広げるようにむくんだ足。ストッキングに包まれたふくらはぎがまだ正常な形をしている事には、毎日の事ながら驚きを覚える。限界だと思ってから随分と時間が経っているというのに。  暗い車内。実際には白いライトで照らされているのだけれど、そう思える程の質量を持った深い沈黙に包まれている。人々はまるでマネキンのようだ。或いは人間達の影だけがその場所に残されているみたいだ。  車窓の向こうには暗闇が広がり、時々そこを横向きに伸ばされた光が通過していく。私はそれを見ながらまた、電車はこの世界のあり方に似ているなんて事を考えている。  電車はいつでも同じ時間、同じ速度で決められた道の上を走っていく。中にいる人間の事には無関心。職場へ向かうための覚悟を決める時間を作ってなんてくれないし、くたくたの体を急いで家まで運んでやろうなんて考えない。  徹底的なマイペース。それと足並みを揃える事ができないから、私達は勝手に焦ったり足踏みをしたりしている。
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