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「やっぱり聞いてなかったんじゃん」  仕事を終え合流した美代子の第一声がそれだった。夜の空の下で煌々と明かりを灯している巨大な建造物は、さっきまで自分達が中にいた事を疑いたくなるくらい他人行儀にこちらを見下ろしている。そこから現れた同僚はスーツを脱ぎ捨て、対男性用の装いとなっていた。  しまった。そっちの飲み会だったのか。その姿を見た瞬間に思う。今日は代えの服など持って来ていない。 「どうする? 取りに戻る?」  美代子の提案には首を横に振った。体の疲労いつもの如く。一度家に帰ってしまえば、再びここへ戻って来る事などできないだろう。 「まあ、あっちも仕事終わったら直接来るって言ってたからいいか」 「相手は?」 「営業の宮下君withその友人」 「なぁんだ」  それならこの格好のままで問題ない。会場もお気軽な居酒屋だろう。  美代子と共に街路樹が並ぶ歩道を歩き始める。行き交う人々は金曜日の魔力を受けてか、少しだけ危険な活気に充ちている。左手の車道には車の列。点々と続くテールランプの赤色を目にすると、いつも少しだけ寂しい気持ちになるのは何故だろうか。  店のチョイスは美代子がしたのだろう。たどり着いたのは私達の作戦本部とも言えるその場所。私達は過去この場所で数多の問題と向き合い、解決する事もないままに忘却の彼方へ追いやってきた。
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