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 見覚えのある店員さんへ美代子が宮下君の名前を告げ、部屋へ案内される。料亭のような造りがこの店の特徴だ。入り組んだ板敷きの細い廊下。明かりは落ち着きのある暖色の照明で統一されている。洒落た雰囲気とそこそこの味のお手頃の料理。それが私達の求めているもの。  テーブルと椅子を閉じ込めたような個室に宮下とその友人はいた。ギアを一つ上げて突入していく美代子の後ろへ隠れるようにしながら中へ入る。軽く挨拶をしたとこで、迷わず生ビールを注文すると美代子もそれに続いた。  当初は美代子と二人きりの方が気楽でいいという思いが強かったが、遊び慣れた宮下君は気取ったところがないおかげで、それほど不快ではない。その友人も多少口下手ではあったが、うるさくされるよりはずっとマシだった。  楽しげに会話を弾ませる美代子と宮下君達を眺めながら、ビールを呷る。その光景に懐かしさを覚えたのは、こうした場に参加する事が随分と久しぶりだったからだ。昔は週末になる度に美代子から誘いがあった。今でも月一ぐらいで美代子とは飲むが、そこに男の人はいない。  一体何故そうなったのだろうと考えると、その答えは分かりきった事だった。彼と付き合い始めたからだ。一緒に暮らすようになったからだ。
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