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以降の記憶は曖昧だ。「もう止めときなって」という心配そうな美代子の声を朧気に覚えているが、それでも私は止まらなかったのだろう。二件目にカラオケへ行って、そこから確かバーに行った。バーは友人君と二人きりでだ。
重たく鈍い頭の痛みに顔をしかめながら、シャワーのお湯を止めた。直ぐに動き出す決心がつかず、壁に手をついて目を閉じる。排水溝へ流れていく水の音が、耳とお腹の辺りにある違和感に煩く響いていた。
ドライヤーで髪を乾かした後、タオルだけ巻いた姿で浴室を出ると、くしゃくしゃになったベッドの前でスーツ姿に着替えている男がいた。
目が合うと、道端でうっかりぶつかりそうになった時のように何度も頭を下げて、ベッドの脇に脱ぎ捨てられている自分の洋服の元へ向かった。
一つに纏められたスーツやワイシャツ。そこから取り出した下着をつけ、続いてストッキングを手にとる。そこにひどい伝線が出来ているのに気がつくと、いきなり体を動かすのが面倒になった。顔の前へストッキングを持ち上げて、その爪で引っ掻いたような傷痕をぼんやりと見つめていると、後ろ姿から声がする。
「あ、あの」
振り返る。着替えを済ませてそこに立っている男とは、今初めて顔を合わせたような気がした。
「一応言っておくけど。俺、結婚してるんで」
「あ、はい」
心が体を離れていくのを感じる。
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