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 ホテルを出た後、男がタクシーを呼ぶかと聞いてきたが、私はそれを断った。  空はうっすらと明るくなり始めてきていたけど、まだ青よりは黒に近い色をしている。車一台分程の狭い道。それを見下ろすように、背の高い建物が並んでいる。見覚えのない景色。だけどスマホで調べると知っている街だった。  始発の電車が動きだすまでにはかなりの時間があった。しかし仮に動いていたとしてもそれに乗ろうとは思わなかったような気がする。  私は人気のない道の硬いアスファルトの上を歩き始めた。体と頭と世界との繋がりが薄くなっているように感じていた。もしかしたら自分は亡霊のような存在になっているのではと疑ったが、やがて空が明るくなり、日が上り、熱のある日射しが辺りを照らすようになると、賑やかになった周りの人々の視線で、まだここにいる事を確認した。  家に到着し、玄関を潜ったところで、崩れるように座り込む。体を丸めて、このままどこへでも運ばれていってしまえと思う。  部屋の方からカシャカシャという音が近付いてきた。もしやと思い顔を上げると、シロがこちらを見上げている。
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