OLと犬

1

　車内に充満した人々のため息を吐き出すように扉が開いて、一歩踏み出したところで「いやいや。だからもうとっくに限界を迎えているんですよ」とふくらはぎが言ってくる。

　聞こえないふりして人波の一部となってホームへ飛び出して、その流れに従って進み、電子マネーで改札を潜る。その間、また心が現実を離れていた気がした。

　構内を抜け、自宅への道を歩き始めた。片側二車線道路。渋滞してできた長い車の列の横を、カツカツと音を立てて進む。背後からの車のライトに照されて、自分の影が進む先へ向かって伸びる。

　電車の中にも、車道にも、こんなにも多くの人がいるというのに、孤独を感じるのは何故だろう？

　そう思ったところで彼の顔が頭に浮かんだ。だけどこの孤独は彼と一緒にいた頃から感じていたはずのものだった。

　まだ少しだけ他人行儀に感じるワンルームマンションへ帰って来ると、カシャカシャと忙しない音が近付いてくる。

「ただいま」

　玄関で私を出迎えたその小さな体をワシャワシャと撫で、一緒に廊下を渡って部屋の中へと入った。

　きっと、訪れた人の十人に九人は殺風景だと感じる部屋だ。相手が男の人だったら、同じだけの人数の人が女らしくないという感想を抱くだろう。