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シロ、だなんて、我ながら安直な名前をつけたものだなと思う。呼ぶ時に困らないければ何だっていいと適当につけたのだけど、今となっては、この子はシロでしかない。
白い毛をしたシーズー犬。目の周りと垂れた耳の先にだけ灰色の箇所がある。黒い小さな鼻。まんまるの瞳。下を向いた小さな口のせいか、いつもとぼけたような顔をしているように見える。
『あんたがシーズーとかウケる』
というのは同僚の美代子の言葉だ。確かに、と思う。小さな頃でさえ女の子らしい物に興味を持たなかった私が、まさか動くぬいぐるみのようなこんな動物をペットにする日が来ようとは。
人付き合いを煩わしいとしか思えない、五年も一緒にいた交際相手にすら愛着を持てなかったのだから、動物を飼う事に適した人間であるかも怪しいところ。いや、きっと適してなどいないのだろう。仕事が遅くなったら可哀想そうだと買ったのに使われない自動餌やり器が視界に入る度に、結構高かったのにと苛立ちを感じさせられている。
餌を食べるシロをその場に残し、部屋のベッドに倒れ込んだ。スーツのシワの事とか、布団の汚れの事とかは気にしていられない。着替えや化粧を落とすために残していた余力は、餌やりの際に生じた余計なストレスのせいで使い果たしてしまった。
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