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「もしかして歳を取ると鼻も鈍感になってくるのかな?」
「言い過ぎだって。直ぐに私達もあれくらいの歳になるんだから」
笑いながらサンドイッチを噛る。玉子サンドにしたのは失敗だった。頭痛のせいか、それを抑える薬のせいか、頭がずっとくらくらしていて、しつこい味付けに吐き気を催す。それを美代子に悟られまいと、慌てて野菜ジュースで流し込んだ。
「それで、どうなのよ?」
彼女は何かを尋ねる時、主語を忘れがちだ。
「どうなのよって、何が?」
「新しい彼氏よ。上手くやっているの?」
私は「ああ」と言葉を漏らす。ああ、シロの事か。
「思ったよりは何とか。残業で疲れて帰った後の餌やりが面倒だけど。食べてくれないのよね。自動餌やり器から出てきたやつは。やり方教えたから餌を出す事は出来るはずなんだけど」
「へぇ」
と、美代子は気に入らないニヤケ面をこちらへ向ける。入社当初からの付き合いだ。彼女が何を言おうとしているかがありありと伝わってくる。
モテない寂しさをペットで癒し、そこに愛情を注ぐしかなくなった三十歳前後の独身女を、これまでどれだけ二人で馬鹿にしてきただろうか。
半年前に同棲していた彼氏と別れ、一人暮らしを始めると同時に犬を飼い始めた私が、自分はそれとは違うのだと言ったところで、今さら納得してもらえないだろう。
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