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 当たった!  まさか自分にこんな運があるなんて思ってもなかった!  なんと私は、水光熱費ゼロ円、月々の家賃2千円という、超超超超格安物件を手に入れたのだ!  街はずれの小さな不動産屋でこの物件を見つけた時は、さすがに事故物件だろと思った。それか変な詐欺。入居後にものすごい金額をふんだくられる(たぐ)いのヤツ。  でも私にとって事故物件は許容範囲だった。霊感とかないし。詐欺でなきゃいい。万が一詐欺だったら消費者庁に相談すればいい。……あれ? 消費者センターだっけ? まあ、そういったところだ。詐欺とかそういう、人の弱味につけこむ奴らが、私は許せない。なんなら証拠を掴んで警察に突き出してやる。  という成り行きで、私は不動産屋に問い合わせたのだ。 「あー、あのアパートね。いま問い合わせが280件くらい来てて、大屋さんが“クジ引きにする”って言ってるんだけど、どうする、申し込む?」  不動産屋の、どう見ても70歳を越えてる男性は、めんどくさそうにそう言った。 「え、ええ、あの、一応……」 「あ、そー。じゃあ、この書類に必要事項書いて」 「はい……」  名前と生年月日、現住所をさらさらと記入していた私の手がぴたりと止まる。  職業……。  実は私は、来月から無職になる。会社で上司と大喧嘩をして、つい退職届を突き付けてしまった(そしてあっさり受理された)。  だが、今はまだ有給消化中、会社員と無職の境目だ。許せ。私は職業と勤務先を、堂々と(したた)めた。ま、ウソじゃないし。  あれから3週間ほど経ち、無職まで秒読みとなった時に、あの当選の知らせが届いたのだ。神は私を見捨ててなかった!  赤く太いゴシック体ででかでかと「当選おめでとう!」と書かれた通知を握り締め、私は私の新しい城、「舞騎魅荘」の前に立ち、その古ぼけた(良く言えばレトロ)2階建てのアパートを見上げた。  ……ていうか、これ、何て読むんだ? まいきみ? どういう意味だろ、どっかの外国語の当て字か?  まあいいや。私はここで質素に、贅沢に暮らすのだ! ***
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