1 黒猫と呪いの刀

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5   手がかり その3 *        *       *  泣いている。誰かが泣いている。何かを泣き叫んでいる。  風の音だろうか。雑音が酷くて聞き取れない。  なんと言っているのだろう?  ただただ闇の中に慟哭がこだまする。  ああ、ここは闇なのか。  だとしたら、なんて悲しい色をしているのだろう――――――。 *        *       *  はっと瞼を開けると、見慣れた天井が視界に飛び込んできた。 『何だったんだ?今の夢……』  裕昌はおもむろに体を起こす。ずしりとした重みを感じて腹の上を見ると黒音が丸くなって寝ている。確かに昨日の夜は猫用のベッドで寝ていたはずなのに。   「……っ、可愛い……」  なぜ猫という生き物はこんなにも見ているほうを癒してくれるのだろうか。裕昌は数度深呼吸をすると、黒音を起こさないようにベッドから出た。 「あいつ、俺を敷布団か枕かどっちかだと思ってるだろ」  今度黒音を抱き枕にしてやろうとひそかに心に決める裕昌であった。人間と猫用の朝ごはんを用意する。今日もあの駅に向かうつもりだ。正直人ならざるものと向き合うのはまだ怖い。黒音があれは危ない、これは大丈夫、と言うものに従っているから今はいいが、自分一人でそれを判断しろと言われるのは難しい。 「はあ、俺なんで視えてるんだろう……」  この数日で世界が一転した。せわしなく過ぎる日々に既に疲労困憊している裕昌である。睡眠はしっかりとっているのだが、精神面が追い付かない。   「ふぁあ~……朝早いんだな、お前」  声のするほうを見ると、大きなあくびをして黒音が廊下をとことこと歩いてきた。まだ眠いのか、むきゅ、と目を瞑ったままだ。 「おはよう、黒音」 「ん。おはよう」  裕昌は黒音にさっきの夢のことを伝えるか迷った。だが、関係ない夢かもしれない。あの刀に関係する夢にしては、どこか悲しげだった。以前見た夢は、激しい情念のようなものが渦巻いていた感じだったのに。裕昌はとりあえず今は伝えないことにした。 「今日はあの女に聞き込みか。頼んだぞ裕昌。あたしが行くと警戒される」 「話せるかな……、俺、人見知りなんだけど」 「五十鈴屋の次期店主が何言ってるんだ」 「次期店主って、そんな話出てないぞ」  まだまだ老夫婦曰く現役らしい。自分は仕事を探していた時に、親戚である二人から誘われたのだ。雑貨屋である五十鈴屋は、和風の小物が多く、お土産として買いに来る観光客も多く訪れる。そんな人たちと楽しげに会話する老夫婦がいつも裕昌には眩しい。 「刀はどうするんだ?置いていくのか?」 「ああ。今日はおいていく。まあ大丈夫だろう」  黒音が刀が置かれている資料館の扉をちらりと見た。昨日あの霊に遭遇したものの、反応がなかったということは大丈夫だろうという見立てだ。 「あたしもあの方には触れていたくないし。いやな気が移る」 「まあ俺も黒音に近づけないのはちょっと苦しい……」  昨日は話すのも一苦労だった。あんなに周りの目を気にしながら会話をすることはこれからもないだろう。出来ればあってほしくない。  朝の時間は緩やかに過ぎてゆく。
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