1 黒猫と呪いの刀

13/22
前へ
/154ページ
次へ
*       *        *  殺してやりたいと思うほど、憎んでいた。  殺してやりたいと思うほど、恨んでいた。  殺してやりたいと思うほど、妬んでいた。 殺してやりたいと思うほど、羨んでいた。  裏切られて、心も身もずたずたに切り裂かれて、泣きはらして。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――、 かわいそう。 すごく、かわいそう。 たすけたい。あなたのちからになりたい。 この、やいばでーーーーー? *      *        *  真夜中。静かになった木造の廊下を、ぽてぽてと小さな音を立てて、小さな影が歩いている。歩くたびに長細い尾がゆらゆらと揺れる。 「たく、この家の周りは雑魚妖怪どもの巣窟だな」  どこか疲れたような声をしているのは黒音だ。つい先ほどまでは五十鈴屋の周りを見回っていたのだ。 「あいつが近くにいるかもしれないしな……」  苦虫を百匹潰したような顔をする。思い出すだけでも忌まわしい。  黒音は階段を上がり、裕昌の部屋へ戻る。ふと、開けっ放しにしておいた扉から、風が吹き込んでいることに気が付いた。 「?裕昌?起きてるのか?……っ!」  人の姿になると、扉を開ける。扉を開けた先には寝床がある。その寝床には主が眠って、いるはずだった。しかし、布団は捲られ、寝床はもぬけの殻だ。そして何より、窓が開いている。 「しまった!あの刀……!」  妖気を張り巡らせ、妖刀の妖気を探る。本来あるべきところに、それの気配がなくなっている。黒音は血相を変えて窓から飛び出る。 「くそっ、やけに静かだと思って放置しておいたのが甘かったか……!」  あの刀が人の体を依り代とすれば、向かう先はただ一つ。その怨みの矛先だ。全速力で屋根を飛ぶように移り、走る。 「頼む、間に合え!」
/154ページ

最初のコメントを投稿しよう!

48人が本棚に入れています
本棚に追加