1 黒猫と呪いの刀

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そもそもあんな事態になったのは、あれだけ妖たちに忠告されたのに、思わずあの刀や当事者たちに同情してしまったからだ。裕昌が振りまいてしまった事態でもある。 「くっそ……!視えてても俺は……!」  視えてるからといって、裕昌自身が変わるわけでもない。ちょっと普通の人じゃなくなっただけでは何もできないままだった。妖たちの警告は何の力も持たない裕昌を案じて故の警告だった。  最速で五十鈴屋の刀が置いてあったほうから入る。そこにはもぬけの殻になった鞘が置かれている。   「一応鞘も持っていこう。刀を抑えることが出来れば……」  この鞘はあの刀が収まっていたものだ。裕昌は一縷の望みをこの鞘に託した。 「よし。相手は幽霊。がんばれ俺」  パンパン、と自分の頬を叩き、気合を入れる。鞘を持つ手が僅かに震えているが、裕昌はそれが気にならないうちに、走り出した。  五十鈴屋から霧笠までは電車のほうが圧倒的に近いが、走れば往復一時間以内で何とか帰ってくることができる距離ではある。これまで激しく体を動かすということをしていなかった分のありったけの体力をここぞとばかりに使う。信号が少ない道を選びながら最短で駅へと向かう。走ってから約十五分ほどが経った。横っ腹がきしきしと痛む。次の角を左に曲がればあの広場だ。  左に曲がると目の前には広場の時計が見える。 「っ!居たっ……!」  暗闇の中に仄かに青白く光っている人影が。裕昌はその霊の目の前まで来ると、膝に手をつき、荒い呼吸を繰り返した。裕昌が手記を差し出す。 「っ、はあっ、はあっ……、これを見て何か、思い出すことは、ありませんか?」  霊は息切れを起こしている目の前の青年に少し驚きと困惑の眼差しを向けている。遠慮がちに手記を受け取った。その様子を見た裕昌は、昼間よりも人間らしさがこの霊に戻っていると感じていた。 「…………………………ぁ」  しばらくの沈黙の後、小さく、女性が声を漏らす。白い肌に一粒の雫が流れ落ちる。 「……上、木さん……」  女性は大事そうにそっと手記を胸に当てる。一方で裕昌は広場の時計を見上げる。針はもうすぐ午前三時半を過ぎようとしていた。なんとか人目につかないうちに戻らなければ。  裕昌は女性の腕をつかんだ。 「失礼します!来て!」  霊は手記を持ったまま裕昌に手を引かれ、あとをついていく。霊であるが故、走らずに浮遊して裕昌の跡をついてきているわけだが、裕昌はそんなことを見る余裕もなく、来た道を全速力で引き返す。だが、途中でどうしても信号に引っかかってしまった。  苦しそうに息をする裕昌を心配そうな目で見ている女性に、裕昌は力強く答えた。 「あなたに助けてもらいたいんです」  
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