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3 手がかり
光が眩しくて、顔をしかめながら目を開ける。昨日の体の重さや苦しさが嘘のように消えていた。
「……黒音が治してくれたのか」
隣で無防備に寝ている黒い猫を見る。この寝方だけ見ればただの可愛い猫だ。
ひっくり返っている姿はとても愛らしい。裕昌はそっとお腹を撫でた。
「ありがとな、黒音……」
「だーかーらー!今日はじっとしてろ!
「え、いやでも店の手伝いあるし……」
「今日ぐらいはあの二人に頼め!お前は病人なんだぞ!?」
朝からこんなはずではなかったのに。裕昌はそっと嘆息した。目覚めた黒音と朝の挨拶をかわし、店の手伝いに向かおうとした時だった。黒音の制止の声が響いたのだ。
そこから今の騒ぎに発展している。周りには騒ぎを聞きつけた五十鈴屋に住み着く妖たちが見守っている。
「いいか裕昌!昨日あったことを終始全部話してみろ!」
「ええと、店番してたら上木さんがやってきて、あの刀を持ったら意識失って、凄く苦しかった」
ん?何か抜けている。裕昌はそう思ったが、何かまでは思い出せない。
「そうだろ!?苦しかったんだろ!?しかもあたしに助けを求めるくらい!」
「う、うん……」
まくしたてる黒音の圧に裕昌は押される。黒音の勢いは止まらない。
「あたしがいなかったらお前は完全に死んでたんだからな!そんな重症だったのに店番!?笑止!」
「ぐ……」
「分かったらとっとと寝てろーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
完全敗北。裕昌の負けだ。黒音は憤慨してふんぞり返っている。裕昌はその迫力に押されて大人しく布団に戻った。
「じゃ、あたしはあの刀の事調べるから、大人しくしてろよ」
「うん」
黒音は周りにいた妖達を一睨みする。
「お前ら!裕昌見張っとけ!」
『は、はいぃ!』
そう一言放つと、黒音は部屋を出た。
実際のところ、裕昌の状態は本当に危なかった。後何分か遅れていたらあの世に行っていたかもしれない。裕昌に流れる黒音の妖気が同調して、黒音に危険信号が伝わったのが幸いだった。
例の刀はというと、一応大人しくしているが、いつまた暴走するかわからない。
黒音は刀の様子を見るため、階段を降りていった。昨日、一昨日と近辺を騒がせたあの妖刀は、何事もなかったかのように鎮まりかえっている。
「さて。一応あたしの妖力で抑え込んでおくか。……こういう時に陰陽師とか頼るべきなんだろうな」
しかし、大抵の場合陰陽師から見て妖怪は滅すべき敵である。黒音が結界などの防御術に特化していればそんな必要はないのだが、生憎、攻撃型の妖であるため封印などは難しい。
たしか、近所に陰陽師を生業としている家系が一つだけあったか。
「これでよし、と。……上木家の事、調べに行くか……」
上木家とこの刀の使用者の間に何らかの諍いがあったことは確かだ。裕昌の夢や、証言から、使用者が女であることは確実だろう。
黒音は、人には視えない人身を取ると、上木家へ向かう。
「あの周辺には昔からいる妖怪たちもいたっぽいしな」
黒音は屋根と屋根を飛ぶように渡りながら、五十鈴屋から遠ざかっていく。
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