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【砂漠と海のエトワール】
それは高校生が作った他愛のないゲーム。
物を作ったり魔法を使ったり冒険ができるファンタジーゲームだ。
四人で集まって作ったそれをSNSを通して公開したのがきっかけ。
最初は面白がってみんなが触ってくれた。そこからたくさんの人が関わって広がっていった。漫画や小説、はてはアニメにまでなって僕たちの及びもつかない影響力を持つようになってしまった。
権利を守る為といって会社を創立して特許申請などを取り始めたのは海斗だった。
「ここは?」
砂漠の乾いた空気が喉をひりつかせる。
砂漠? 目も開けていないのに今僕はどうして砂漠って思ったんだ。
ゆっくりと目を開く。
「……砂漠だ」
イメージで浮かんでいた光景がそのまま眼前に広がっていた。
砂丘がいくつも重なり、凹凸の激しい砂の道が全方位を覆っている。肌を焼き焦がす陽光に容赦はなくて、嫌が応にも両腕を使って顔を守らないといけなかった。
「僕はここを知っている」
一面の砂漠も、照り尽す陽光も、乾ききった喉も、肌の痛みも、おぼろげな意識も、すべてどうでもよかった。
「【砂漠と海のエトワール】。僕たちの作ったゲームだ」
確信があった。
誰が何と言おうとも、それが自分たちの作った世界の光景だというはっきりとした答えが胸の内に灯っている。
「どうして僕が。この世界に?」
疑問に答える者はすぐにでも見つかった。
いや、見つけ出されたの方が正しいのかもしれない。
「ヤー! ヤー! ヤー!」
掛け声は強く猛々しい。
ラクダに乗った屈強な兵士たちが空太を囲む。
空太は彼らを仰ぎ見た。
「ヤー! ヤー!」
男たちの1人が近付いてくる。
「タカイソラタだな」
高井空太。それは間違いなく自分の名前だった。このゲームに自分の名前を入力したのはクレジット部分だけだったと記憶していたけど、それをこのキャラはインプットしているのだろうか。
そんな風にメタフィクションな思考が脳裏をよぎったが、話はそう簡単なものでもないらしい。
「我が王、カイト様の命である。神妙に縄につけ」
古めかしい言葉と一緒に曲刀が引き抜かれた。
刃物のぎらつきは禍々しくて、妙に魅力的だった。その刃物の怖さに空太はぞっとした。
「(ああ、ここはゲームだ。だけど、違う。これはただのゲームじゃない)」
それに名前。
兵士が告げる王の名前に。
ソラタは誰よりも心当たりがあるのだった。
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