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俺は、なんでもいいから、どんなに変な能力でもいいから、自分を表すことのできる特徴が欲しかった。
俺の心は俺を目立たせるために必死である。毎日、ぐつぐつと燃えながら自分を表現する方法を考えている。俺の本能はいつも燃えたぎっている。
それでも、できなかった。何にも恵まれなかった。身長は160にも満たず、ルックスは下の中程度。毎日数キロ走って筋トレも欠かさずしているのに、運動神経は平均程度。勉強も週何十時間もしているのにやはり平均程度。
周りは少なくとも何かに秀でていると言うのに。俺は努力していると言うのに。
俺は毎日俺を恨みながら、1日が終わる。
ある日、俺がいつものように下を向きながらとぼとぼと帰っていると、父親が目の前に現れた。
俺の父親は完璧人間だった。俺とは真逆の生命体だった。それもそうだった。この人は義父なのだ。俺は養子として何故かこの男のところに行ってしまった。だから俺はこの男のことが嫌いなのだ。
そしてその嫌いな男は俺にこう言ってきた。
「やあ、我が愛しい息子よ。突然だが聞いてくれ」
「私の腕を食べてくれないか?」
何を言っているのだろうか。俺はこれでも人間である。人間には共食いなんてことは、ふつうできないはずだ。
「無理だよ、父さんの肉を食べるなんて」
俺は父さんへは表の顔を見せていた。
「違うんだよ息子。俺の肉を食べると息子の体に変化が現れるらしいんだ。だから息子、俺の研究に貢献してくれ」
「変化ってどう言うこと?」
「俺の能力が現れるってことだ」
俺はこいつの話が全くもってよくわからなかった。能力とはなんなのだろうか。研究とはなんなのか。けれど俺は従うしかなかった。まだ表の顔を剥がすタイミングではなかった。
「いいよ」
「いいのか息子。じゃあすぐに準備しよう」
家に帰ると、その男は嬉々とした表情で自分の腕を切っていた。その肉は数分の間に加工されて目の前に現れた。見た目はまさにつくねだった。
「さあ食ってくれ」
俺はその肉を、食べた。
「どうだ息子よ。何か変化はあったか?」
俺は一瞬気を失っていた。人間の肉を食べたからであろう。そして意識が戻って周りを見渡してみたがそこには誰もいなかった。
「お父さん?」
そう呼んでも返事は聞こえなかった。けれど、呼んだ時口の中に何かが入っていることに気がついた。さっき食べた肉は飲み込んだはずだった。俺は恐る恐る下を見回した。理科室にある模型と間違えてしまいそうになるくらい綺麗に、あいつの肉は食われていた。
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