「雨宿り」

1/10
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ

「雨宿り」

雨が降ってきた。 ぽつりぽつりと  足元に落ちてきた。 雨は特別嫌いではない。 洗濯物が一日増えるとか、片手を塞ぐ傘が少し邪魔になるとか、面倒ごとの1つや2つは増えるが、外にいる人が少なくなるのはメリットだ。 いつもより静かな景色を眺めることができる。 いつもより余裕が出た大通りを、人目気にせず歩くことができる。 いつもより気温が低い空気を吸うことができる。 こうして一人公園で道草を食っていても、人に見られることがない。 降っているか降っていないか分からない  ささやかな雨。 俺は気にせず、仕事終わりにバックヤードでもらった菓子パンの袋を破き、頬張った。 『悪いが 君を解雇する。』 社長は面倒くさそうに俺を切り捨てた。 『この不景気だろ?新天地に連れて行けるやつは限られてるんだ。分かってくれ。』 現時点でのビジネスに限界を感じていた会社は、他会社に吸収合併される形で新たな経営を始めた。ただしそれは、社員を3分の1カットする条件付きだった。 突然のことに愕然とする者もいた。家族を養わなければいけないと泣き叫ぶものもいた。上層部への愚痴や確証のない噂を流す者もいた。 ただ、仕事への未練もこだわりも失うものも得るものも無かった俺は、自分でも引いてしまうくらい取り乱さなかった。 「これからどう生きるのが一番安全か」 蝋人形のような無表情で、淡々と荷物を片付けながら考えていた気がする。 確かその日も、今日みたいな雨が降っていた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!