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「……デニス、こいつ、全く動かないぞ。
もう死んじゃったんじゃないだろうな…」
キリルは、顔を少し後ろに傾けながら、心細げな声を出した。
「途中で死ぬかもしれないって言ってたから、そういうこともあるかもしれねぇな。」
二人は、棒の中央に大きな頭陀袋を吊るし、前後に分かれてその荷物を担ぎながら人気のない深夜の道を歩いていた。
「おいおい、そんなこと言うなよ…
だいたい、おまえがあんなことを引き受けるなんて思わなかった!
……俺、やだぜ!
いくらなんでも、人殺しなんて…」
「馬鹿野郎!俺だって端からそんなことする気はないさ。
おまえ、気づいていなかったのか?
あの時はああ言わなきゃ、俺達は間違いなくあの場で殺されてたぞ。」
「ま、まさか…!」
震える声でそう言ったキリルの顔から血の気が失せていく…
「そ、それで、デニス…
これからどうするつもりなんだ?」
「とりあえず、アドニアの店に行って相談してみよう。」
*
「……どんな目に遭わされたのかはわからないが、こりゃあ、またずいぶんと酷い様子だね。
このままじゃきっと死んじまうね。」
アドニアは、そう言って小さな溜め息を吐いた。
「……やっぱり、だめか…」
アドニアの店の奥の部屋で、袋から出されたのは死んだようにぐったりとしたディオニシスだった。
息遣いもとてもかすかなもので、いつ途絶えても不思議はない程だった。
「……普通なら間違いなく死ぬだろうね。
ところが、この子はとてもツイてる…
今日は、久し振りに店にスピロスが来てるんだ。
ちょっと!スピロスを今すぐここへ呼んで来な!」
アドニアは店の者に声をかけた。
「アドニア…スピロスってあの伝説の…?」
アドニアは「ゆっくりと頷いた。
駆け付けたのは、デニス達とさほど年の変わらない物静かな雰囲気の青年だった。
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