占い師ダニエル

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* (あんまりだ……) 背中を丸めたダニエルは、心の中で自分の不運を嘆いた。 ダニエルの占い部屋は、酒場の奥の小部屋だった。 そこは、酒場で働くダニエルの自宅でもあった。 昼から夕方の間、ダニエルはカーテンでベッドを隠し、そこで占いの仕事をしていた。 しかし、飲み屋の立ち並ぶ柄の悪い一角の、そんな目立たない場所にある胡散臭い占い師にわざわざみてもらいたいとやって来る客はほんの僅かだ。 働く時間が比較的短く、自宅を兼ねた占いの出来る手頃なスペースがあることから、ダニエルは店主に頼みこみ、そこで働かせてもらうことを承諾させた。 ダニエルは、元々夜はそれ程強い方ではない。 仕事の途中で眠りこけてしまうことも度々あった。 酒も飲めないから、酒の名前自体もほとんど知らず、ダニエルに出来るのは注文を取ったり運んだり、食器洗いや掃除をするくらいのことだった。 それすらも決して手際が良いというわけではない。 そこで働きながら地道に占いの修行をし、いずれは世間でも名の知れた占い師になることがダニエルの夢だった。 しかし、今日の一件でその夢は儚くも潰えた。 あの女性が問題を起こしたことで、店主は仕事の出来ないダニエルを追い出す口実を得たのだ。 小さな荷物と今日までの僅かな賃金をもらい、ダニエルは体良く店を追い出された。 (こんなことなら、嘘でも良いからあの女性の喜ぶようなことを言っておけば良かった… 何も本当のことなんて言うことなかったんだ…そうすれば、こんなことにはならなかったのに…) ダニエルは、小さな溜め息を吐き、空を見上げた。 暗くなり始めた空に、一番星がきらりと光る。 (……仕方ない。 とりあえずは、どこかで何か食べて… 夜は公園かどこかで過ごすことにしよう。 明日からまた職探しだな…) 心の中でそう呟くと、ダニエルは重い足を引きずり歩き始めた。
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