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あたりには食事の出来る店は何軒もあったが、さすがにクビになったばかりの店の近くでは食べる気にもなれず、少し離れた商店街へ行こうと歩き出したダニエルの目に、狭い路地にいる一人の老人が映った。
老人は今の時代には不似合いな黒いローブを着込み、目深にフードをかぶっていたため、性別はわからない。
小さな折り畳みのテーブルを設え、その前にちょこんと座っている所から、ダニエルはその老人を同業者だと感じだ。
(あ……あの人、あんな所に店なんて出したらヤバいのに…
……でも、僕には関係ないことだ。気にすることなんてないさ。)
老人から目を背け、歩き続けるダニエルの足が不意に停まり、小さな溜め息を一つ漏らすと今来た道を後返り始めた。
「あの……」
「……やっと来たか。
遅かったじゃないか。
ようやく準備が整ったようだな。」
「え?」
間近で見ても、その声を聞いても、ダニエルにはその老人の性別がわからなかった。
それどころか、ダニエルには老人の言っている言葉の意味さえ理解出来ないでいた。
「あの…こんな所で店を出してると…」
老人はダニエルの言葉に耳を貸す様子はなく、懐の中から一組のカードを取り出し、ダニエルの前に差し出した。
「何をしている。
そんな所に突っ立ってないでそこに座って、これをシャッフルするんだ。」
その声は老人にしては力強く高圧的で、ダニエルは反射的に言われるままに行動していた。
「あ……」
「……どうだ?とても扱いやすかろう?」
まるで心の中の想いを見透かされたようで、そのことにダニエルは小さな不快感を感じながらも、素直に頷いた。
「それはおまえさんのカードなのだから当然のことだ。
さ、一枚選んでここに置くんだ。
……まぁ、最初はどれほどシャッフルしても間違いなく決まったものが選ばれるのだがな…」
そう言った老人の口端が僅かに上がった。
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