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(おまえさんのカード?どういうことなんだ?
……これを僕にくれるってことか?
それとも、売りつけるつもりなのか?)
ダニエルはそんなことを考え、多少警戒してはいたが、相手は老人。
何かあったとしても、すぐにこの場から逃げ出せば、老人が若い自分の足に追いつくことは出来ないだろうと考え、言われるままに一枚のカードを置いた。
「残りのカードを…」
老人は、ダニエルからカードを受け取ると、それをカードよりほんの少し大きめの缶に入れ、その周りをしっかりとガムテープで巻き始めた。
(……そうか、この老人は占い師じゃなくて手品師なんだな。
さっきからよくわからないことを言ってるのも、きっと何かの演出なんだ。)
ダニエルは老人のしようとしていることを推測し、なんとなくほっとした気持ちを感じていた。
「あの…これがすんだら早くここから出て行った方が良いですよ。
ここらにはちょっとややこしい人達がいて、勝手に商売をしてるとその人達が…」
「これは、おまえさんにとって命と同じくらい大切なカードであることを忘れなさんなよ。
一日一度以上は引けない。
引いたカードにしか絵柄は現れない。
事が終われば自然にカードは消える。
帰還したくば、最後のカードを破り捨てる事だ。」
「……は?」
老人は、ガムテープの巻き終えた缶をダニエルに手渡した。
「あの…今のはどういうことですか?」
「すべては、今、言った通りだ。
カードがおまえさんを選んだのだから。」
手品にしては演出が凝り過ぎていて意味がわからない。
そして、親切心でわざわざ立ち寄った自分の言葉を全く聞こうともしない老人に、いささか腹立たしさを覚えたダニエルは、おもむろに席を立った。
「さぁ、そのカードを…」
老人はダニエルの態度に驚いた様子もなく、テーブルの上のカードを顎で指し示し、静かにそう囁く。
ダニエルは、どうしたものかと戸惑いながらも、ゆっくりとカードに手を伸ばしそれを表に返した。
裏返されたカードは真っ黒で…しかし、そこに少しずつうっすらと影のようなものが浮かび上がっていく…
(すごい…!一体、どういう加工がされてるんだろう?
絵柄も綺麗だな…これは…王子?でも、聖杯でも剣でも……)
「あ…あぁ…!!」
ダニエルの周りが突然真っ暗になり、身体がぐらぐらと揺れるような、回るような感覚に襲われ、そして彼はそのまま意識を失った…
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