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ほれ、と紙パックの牛乳を手渡すと、少女はぱあっと明るい笑顔を見せて直に口をつけて、ぐびぐびと飲み始めた。
「そんなに牛乳好きなのかよ」
「んー、好きだよ。やっぱこれですなあ」
良い飲みっぷりに思わず見入ってしまっていると、
「これ飲む間だけ、ちょっと付き合ってよ」
と言って、少女は自分隣のスペースを手でぽんぽんと叩く。立ち去るタイミングを完全に逃した俺は、仕方ないので指し示された場所に座ることにした。
「なあキミ、こんな時間に一人で大丈夫なのか?」
一番気になっていたことを聞いてみると、少女は口に白いひげを作りながらこちらを向く。
「んー、大丈夫。帰るところはあるから」
とりあえず家出少女ではない…か。
「なら良いけど…人気も少ないし、気を付けろよ」
「ねえ、お兄さんお名前は?」
全然俺の話を聞いていない。普通じゃないとは思っていたが、やっぱり自由な奴だった。俺は少し迷って、下の名前だけ答えることにする。
「ん…俺は、トオルだよ」
少女はにかっと笑って、聞いてもないのに名乗り出した。
「あたしはハナ。いい名前でしょ」
そう言ってぐびっと最後の一口を飲み終える。すると牛乳パックをわきに置いて、俺の顔をまじまじと見つめてきた。何だか顔が近いんだが。
「トオル、顔が疲れてる。お仕事しすぎじゃない?たまには休息も、大事なんだよ」
ハナはそう言ってすくっと立ち上がり、大きく伸びをする。なんで俺、初対面の女の子に身体の心配されてるんだ。俺が返事に困っていると、
「これ、ありがと。じゃね、また明日っ」
と牛乳パックを指さして言い放ち、たたっと駆け出して夜の闇に消えていった。今、「また明日」って言ったか?まさか明日も、こんな時間にここにいるんじゃないだろうな。
「まさか、な」
俺はあんまり考えないようにしてその場から立ち上がり、改めて家路についた。
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