大型犬を拾ったようなもの

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大型犬を拾ったようなもの

名前はハル バツ1 子供は元嫁が引き取る  出会った時は社長だった 友達の経営するスナックで知り合う その日、私は別の友人の付き添い 「ママが男紹介してくれるんだ 社長なんだって」 と、年甲斐もなくミニスカートをはいて はしゃぐ友人 「いらっしゃいませ」 ママが言った 入ってきたのは作業服姿の男性 友人はすぐにソッポを向き 別の常連客の隣に座り 困った私は彼の隣に座る 「何か飲みますか?」 と言われ、 一緒に飲み始める 背も高くイケメン 年令より若く見えた 一緒にカラオケをしたりして 意気投合して盛り上がる いつの間にか、友人は帰っていた カウンターの彼とは反対側に 別の常連客が座る ザ、タッチのふたごに似た ポッチャリした男性が私に話しかける  すると、彼が怒り出した 「この女性は、今僕と話しているんだ」 と言うと、取っ組み合いの喧嘩になってしまった まるで漫画の世界のようだった その後、タッチ似の男性が帰り 気が付けば終電がない時間だった そのスナックは朝5時迄営業していた 私は朝迄、始発を待つことにした 彼も付き合って朝迄飲んだ 松山千春の長い夜、尾崎豊、浜田省吾、 80年代ヒット曲を二人で唄った 歳は1歳年上の彼 私は45歳だった 娘が成人して離婚したばかり 彼は離婚して2年だった 結婚してから、ずっと働いて、子育てして、20年以上連れ添った夫 離婚の理由は、夫の浪費 しかし、夫は娘が小1の時にガンになり、 ガンの夫を捨てる事が出来ないので 夫と娘の為にその時は離婚しなかった ガンにかかって10年が経ち 青森出身の無口な夫が突然仕事を辞めた 私に何の相談もなかった 娘は高2大学受験を控えていた 夫は水道やガス工事の職人 人付き合いが苦手だ 20年勤めた会社を辞めて自営業を始めた 口下手な夫は仕事がなく 週休6日家にいた 辞めた小さな会社からもらった退職金は 500万円だった あっと言う間に貯金が無くなった 私は 「500万円 も あったら二人で 海外一周旅行に行けるよ」 って言うと 夫は 「たった 500万円」 と言った 価値観の違いには気付いていたが このままでは生活していけない 私はリフォーム会社に就職し、営業のノウハウを学んだ 週休6日で家にいて家事も犬の散歩も行かない夫とは別居した 別居中も夫は晩ごはんを毎日食べに来ていた 1日500円食費を置いて行く 泊まって行く事もあり夜の営みもあった 価値観の違いを除けば、夫婦仲は悪くなかったと思う 相変わらず仕事のない夫に私が、 「一緒に営業行こうよ、名刺とチラシを作って、外から見て古い給湯器の家とか、回らない?」 約束した日、夫は連絡して来なかった それ以来、晩ごはんも食べに来なくなった メールも電話もない 私からは意地でも連絡しなかった 夫のアパートは私の家から徒歩10分 生きているのはわかっていた そんな状態が一ヶ月が続いた 別居して2年経った頃だった そんな時に彼に出会った カラオケなんて何年振りだろう 楽しかった 駅のホーム迄、彼が送りに来てくれた また会う約束をして別れた 家に帰り、元夫に電話した 「一緒に営業行こうって約束したのに、 なんで連絡して来ないの?」 何も話さない夫に怒鳴った 「音信不通にする前に 言う言葉があるでしょ? ありがとう じゃないの!」 大声で怒鳴ったら、声が出なくなった カラオケも行けないし 彼に会う事が出来なかった だけど、夫に嘘のメールをした 「鈴木 晴雄さんという人と結婚します 社長さんです」 夫からの返信メール 「お幸せに」 20年以上連れ添ったのに ガンの夫を支えて 子育てして 働いて 悲しかった 夫に質問する 離婚して自営を続けるか 自営を辞めて家族で暮らすか どちらを選ぶかのか? 答えは離婚して自営続ける と言われた 夫は離婚届には簡単に判を押した 財産なんて何もなかった 車好きの夫は結婚してから 400万円くらいの車をローンで買う ローンが嫌いな私は 貯金が出来たら一括返済した ローンがなくなると また新車を買う 娘が生まれた頃に 車の事で喧嘩した時に 「俺が稼いだ金だ 何に使おうと自由だ」 と夫に言われた 夫は初婚だった 私は2歳の息子がいた 連れ子がいての再婚で 負い目があったのだろう 私は何も言い返せなかった 娘が生まれた時、息子は4歳 その時は離婚する事が出来なかった 大学生の娘は20歳になった 娘は夫に似て浪費家だ 家の事は何もしない 娘が中1の時に 犬を飼いたいと言い ミニチュアダックスフントを飼った 色がシルバーダップルで その当時は高かった 8ヶ月迄売れ残り 値下げされて98000円だった 売れ残り処分される所だった 血統書が付いていて 両親はチャンピオン犬だった 夫が子犬を産ませたいと ブリーダーに相談すると この犬種にはブラックタンしか 掛け合わせられない 相性もあるから二匹一緒に飼う方が 妊娠しやすいと言われて ミニチュアダックスフントの子犬を飼う 一匹目はメスで名前はラム 二匹目はオスで名前はレオ 結局、二人は散歩も連れて行かず 世話はほとんど私がしていた よくある話だ 別居した時は、私が2匹連れて来た 娘は 「パパが心配だから、パパと住む」 と言った その時、娘は自分が夫と暮らせば 私が戻って来ると思っての事だった でも結局、私の家で生活していた 離婚したら夫の近くには住みたくなかった 夫のアパートは、ペットが飼えなかったので 娘と夫に私のアパートに住んでもらい 私は一人になりたかった 結婚してから家族の為に 4人分の洗濯、食事、お弁当 浪費家の家族 自分の物は買わず節約して 昼も夜も働いて 夫のガンは完治していた 大腸ガンだった ガンになった後も高い車を買っていた 夫に犬の事をお願いすると 自分は飼えないから処分する と言った 信じられなかった そんな人と一緒に暮らしていた と思うと悲しかった 私は犬二匹を連れて引っ越しした 娘は夫と暮らしてもらった ハルとは、あれ以来会っていない 久し振りに連絡を取り、会う約束をした 運送会社の社長をしていた彼は 年末は忙しく会う時間もなかった やっと会えた彼に私は 「忙しいのに、ありがとう」 と言うと、彼は 「時間は造る物だから」 と、カッコいい事を言った 元嫁とは8年間セックスレス 元嫁は別の男と再婚したらしい 離婚して2年経つらしい その間、浮気もしなかったし 離婚した後も付き合った人はいないらしい 彼に私は聞いた 「あなたの夢は何?」 彼は、独立して15年間休んでいないらしい 「何もしないでボーっとしたい」 と言った 私の夢は専業主婦 浪費家の夫を支えて、子育てしながら働き続けた 彼に私は聞いた 「私一人養える?」 彼はその時 「大丈夫だよ」 と答えた 実際は違った 会社の経営は上手くいっていなかった 間もなくして破産させた 従業員を友人の会社に紹介し 所有していたトラックを売却して 8000万円の負債を抱え破産した 私のワンルームに犬2匹の所に住みついた まさに大型犬を拾ったようなものだった
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