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アジサイの花言葉
朝、事務所の前にカラフルな花の鉢植えが置いてあった。梅雨の時期によく見る花だ。アジサイ。ピンクと白と青?
「おはようございます。佐々木さん、アジサイ、綺麗ですね。どうしたんですか? 」
事務員の佐々木さんがじょうろを片手にやって来たので、聞いてみた。
「真田君、おはよう。課長が持ってきたの。綺麗でしょう? 」
「はい! でも、青のだけ、変わっていますね」
「うん。これはガクアジサイ。アジサイの原種で、もともと日本に咲いていたのはこういうアジサイらしいわよ」
「佐々木さん、詳しいですね。やっぱり女性だから」
「ふふ、残念ながら、課長の受け売りよ」
佐々木さんは綺麗に笑って、ネタ晴らしをしてくれた。彼女は、僕の一つ上の先輩で、とても可愛らしい容姿をしている。性格はさばさばしていて、楽しい人だ。ピンクのアジサイは彼女にぴったりな印象だ。
「真田、おはよう」
「おはようございます。課長、アジサイ綺麗ですね。ピンクのなんて、佐々木さんにぴったりだと思いませんか?」
七森課長がデスクに腰かけたまま、こちらを向いて挨拶をしてくれたので、俺も挨拶を返して、ガラス扉を指さした。
「ピンクのアジサイの花言葉、知っているか?」
課長はニヤリと笑って、右手に持っているペンをくるりと回した。上機嫌だ。
「花言葉? 知らないです」
「アジサイの花言葉で有名なのは、移り気とかなんだがな、ピンクのアジサイの花言葉は元気な女性なんだと。あの花が彼女にぴったりという真田は、よいセンスをしているよ」
課長に褒められて、俺は嬉しくなる。
「まぁた、真田君はそんな顔して、朝からご馳走様。さぁ、仕事しましょう」
にやけた顔を佐々木さんに見咎められて、俺は気恥ずかしくて頭を掻いたのだった。
帰宅してから、俺は缶ビール片手に何げなくパソコンに向かった。
「アジサイの花言葉、と」
検索窓に打ち込んで、出てきた記事を読んでみる。
白のアジサイの花言葉は『寛容』、なんだか課長を表しているような気がして、俺は誰もいないというのに照れてしまった。
そして、ガクアジサイの花言葉は『謙虚』。
「謙虚かぁ。俺も謙虚に頑張んないとな」
パチンと、両頬を叩いて、気合を入れる。それから、グッと缶ビールの残りを飲み干して、パソコンに向き直った。資格試験の通信講座に取り組むために。
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#一日一花BL企画 参加作品です。
イラスト:松下リサ様@risa_m1012
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