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疑問符と感嘆符
二人とも食べ終わったので食器を洗い、麦茶をもう一回注いで胃を休ませる。このあと風呂に入らねば。
テレビの前のなかなか座り心地がいいソファーに座りボーッとしていると、いきなり
「ねえ」
と若松が話しかけてきた。
内心パニックなる。4月に入学して今の6月の間、飯こそ作っておいたり、一緒に食べたりしたものも、向こうからまともに話しかけられるのは初めてだからだ。
「どうした?」
うるさい心の声に反して、出てくる言葉は冷静だ。
「僕のこと見て、なんとも思わないの」
なんのことだ。眉根にシワがよってしまう。
「どういうこと?」
俺が頭に疑問符を浮かべていると、若松が焦れたように、苛立ったように、地団駄を踏む。
「だから!僕を見て性的に興奮しないのかってこと!襲いたくならないの!?」
「はっ?」
思わず思ったままのことを返してしまった。
「だって皆、抱きたいとか言ってくるんだよ。襲われかけたこともあるし。なのに君はこれまで僕とあまり接点を持とうとしないどころか、そういう目で見てきたことも、襲おうとしたこともないじゃん」
いや、襲おうと思うやつがおかしいよね!?
「本当は僕のこと好きなんじゃないの?だから襲えないんじゃない?」
えっ?怖い怖い。
「別に…君とならいいよ」
少し照れたように若松が顔を赤くする。可愛い。じゃなくていや、怖い。ものすごく怖い。自意識過剰にも程がある。
「いや、若松が好きとかじゃないし、そういう対象にみたこともないし、遠慮しておくよ」
「嘘だ!そう言ってた先輩にも襲われかけたことあるもん」
こいつ…苦労してんだな。俺には関係ないが。
「そうか、大変だったんだな。よければ話を聞くよ。でも、そういう対象にはみれない。」
「分かってるよ。ノンケなんでしょ。」
「違うけど?」
「えっ!?」
若松が心底驚いたような声を出す。残念ながら俺はノンケではない。ゲイだ。それも…
「俺はゲイだよ。どちらかというとバイだけどね。因みに下ね」
あっ、若松が固まった。俺がネコだとは思っていなかったようだ。俺は女の子とはするときはタチだが、男とするときはネコだ。どうせならどっちも経験したほうがいいじゃん?
「若松って、ネコでしょ。だからそういう目で見たことない。まあ、抱いてくれるって言うなら別だけど」
俺は、固まっている若松をリビングに残して、さっさと風呂に入って寝た。
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