諦めた恋

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都筑さんは前の会社を辞めてから半年ほどフリーランスで活動したかと思うと、すぐに「株式会社K.Works」として法人化。 そのタイミングで、約束どおり私を呼び寄せた。 私は秘書になりたいですなんて一言も言っていないのに、彼は何の相談もなく、私を「K.Works」のデザイナーではなく、秘書にした。 当時の彼の言い分がこうだ。 『デザイナーにするなんて一言も言ってない。俺はお前のその絶妙にちょうど良い気遣いと、波風を立てずに要求を飲ませる交渉力を買ったんだ。デザインの才能は全くないようだが、それは俺だけで足りてるから心配するな』 いや、私も一応、デザイナーの端くれなんですけど……。 思わずそう言おうとしたが、この天才に「デザインの才能はない」とはっきり言われては、何も言い返せなかった。 それに彼の言う通り、私にデザインの才能はなかった。 その証拠に、仕事内容がデザイナーから秘書に変わった途端、すべてのつまずきが消え、こっちが天職だと分かったのだ。
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