20・尾形サイド

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「私、尾形くんのこと好きなの」 「え?」  話が見えない。 「高校の頃からずっと好きで……忘れられなくて。もう会うこともないだろなと思ってたから、バスケの大会で会えた時嬉しかった」 「井上……」  遠くで車のクラクションが鳴るのが聞こえた。 「うち、父親が早くに亡くなってて、家族で男は自分だけだからって、弟……啓太っていうんだけど、自分が家族を守るって思ってたらしいのね」  最近、知ったんだけどね、と井上はへへ、と笑った。 「恥ずかしいことに私がずっと尾形くんのことひっかかってて、新しい恋に踏み出せないの気づかれてた」  あの時、『あんたのせいで』と啓太くんは言ってた。 「井上のこと……大事に思ってるんだな」  井上は緩やかに微笑んだ。 「逆恨みもいいとこだよね。でも、ちょっとだけ嬉しかった。だから、私ももう逃げないって決めたの」  オレをまっすぐに見る、井上は……綺麗だった。 「尾形くん、好きです。よかったら、私と付き合ってください」  本気の告白。オレは……オレは、この想いを知っている。 「……ありがとう。気持ちは嬉しい。でも……」  痛いほどに伝わって来る。だからこそ。 「ごめん。今オレ、好きな人がいるんだ。その人を護りたい。大切にしたい。だから……井上の気持ちには応えられない」  彼女は黙ってじっとオレを見つめていた。 「……うん、分かった」  そしてニッコリ笑った。 「私、自分の気持ち伝えられてよかった。その点では啓太に感謝しなきゃ。おかげで前に進めそう」  井上が、すっと手を差し出した。 「――ありがとう」  オレはその白い手をそっと握った。 「――こちらこそ」
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