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「私、尾形くんのこと好きなの」
「え?」
話が見えない。
「高校の頃からずっと好きで……忘れられなくて。もう会うこともないだろなと思ってたから、バスケの大会で会えた時嬉しかった」
「井上……」
遠くで車のクラクションが鳴るのが聞こえた。
「うち、父親が早くに亡くなってて、家族で男は自分だけだからって、弟……啓太っていうんだけど、自分が家族を守るって思ってたらしいのね」
最近、知ったんだけどね、と井上はへへ、と笑った。
「恥ずかしいことに私がずっと尾形くんのことひっかかってて、新しい恋に踏み出せないの気づかれてた」
あの時、『あんたのせいで』と啓太くんは言ってた。
「井上のこと……大事に思ってるんだな」
井上は緩やかに微笑んだ。
「逆恨みもいいとこだよね。でも、ちょっとだけ嬉しかった。だから、私ももう逃げないって決めたの」
オレをまっすぐに見る、井上は……綺麗だった。
「尾形くん、好きです。よかったら、私と付き合ってください」
本気の告白。オレは……オレは、この想いを知っている。
「……ありがとう。気持ちは嬉しい。でも……」
痛いほどに伝わって来る。だからこそ。
「ごめん。今オレ、好きな人がいるんだ。その人を護りたい。大切にしたい。だから……井上の気持ちには応えられない」
彼女は黙ってじっとオレを見つめていた。
「……うん、分かった」
そしてニッコリ笑った。
「私、自分の気持ち伝えられてよかった。その点では啓太に感謝しなきゃ。おかげで前に進めそう」
井上が、すっと手を差し出した。
「――ありがとう」
オレはその白い手をそっと握った。
「――こちらこそ」
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