1243人が本棚に入れています
本棚に追加
結局いろいろ悩んで、悩むのが馬鹿らしくなって適当にそこにあったチノパンとポロシャツを掴んだ。たかが尾形と出かけるだけなのに。そんなに悩む必要あるか!
「馬鹿。そんなに見るな」
「すみません……つい」
照れくさそうに、へへ、と鼻の下を擦る。
そういう尾形はダメージジーンズにハイカットのスニーカー、上は大きくロゴの入ったTシャツとチェックのシャツを重ねている。
普段のスーツと違って、少し幼く見える。
……これもいつもとのギャップだ。ただそれだけだ。
「尾形~」
遠くからジャージ姿の若い男がこちらに走り寄ってきた。尾形程じゃないが、こいつもそれなりにデカい。
「杉下」
二人は拳をぶつけ合って、元気か? と笑いあった。
「あ、先輩、こいつオレの同期の杉下です。一応プロリーグ所属で……時々高校でコーチしてるって話した奴です。杉下、久坂先輩。オレらの二個上」
杉下はニッコリ笑って俺に手を差し出した。
「覚えてます。先輩のスピードとパスワーク、すごかったです」
「いや……そんなこと……」
そっと差し出された手を握る。プロで頑張ってる奴にそんなふうに言われると、恐縮する。
「今年のやつら、すごいですよ。期待して見ててくださいね」
「あ、ああ」
準備があるので、と颯爽と走り去る杉下を見送ってから尾形を見上げると、なぜか不機嫌そうに頬を膨らませていた。
「尾形?」
不思議に思って声をかけると、いきなり膝を曲げて視線を合わせてきた。真正面に尾形の真剣な顔。
「な、何……」
「――オレも握手していいですか」
「は?」
「オレだって手握ったことないのに、あいつだけずるいです」
「はあ? ただの握手だろ?」
「ただの握手ならオレにもしてください」
何なんだ。意味わかんねえ。でも特に断る理由も思いつかなくて……差し出された手に自分の手を重ねる。触れたと同時に、両手で包みこまれた。
最初のコメントを投稿しよう!