1・久坂サイド

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「す、すみません、寝かした方がいいかと思ったんですけど、オレうまくできなくて、あの、壁にぶつけちゃって……」 「……お前が送ってくれたのか」 「え? あ、はははいっ」  どうでもいいけどさっきからやつの態度がおかしいな。 「あの、さっきのはそれでまっすぐ寝かそうとしてああなったわけで、その決して深い意味は……っ」  深い意味なんかあってたまるか。 「ああ……分かってる。送ってくれてありがとうな」  でもなんであんなに一生懸命言い訳してんだ。らしくないな。……ん? 「そういえば、よく俺の家分かったな」 「え、でも先輩、タクシーの運転手にちゃんと指示してましたよ」  酔って記憶なくしてもそこはきちんとしてんだな。俺偉い。 「あの、そしたらオレこれでっ。頭すんませんでした。失礼しますっ」 「あ、おい……」  俺が呼び止めるのも聞かず、尾形は慌てて部屋を出て行った。  ……へんな奴。タクシー代くらい出してやろうと思ったのに。でもまあいいか……今日は他の奴にいてほしくない。 『(あきら)……愛してる』  あの人の手が俺の髪を撫でる。耳に響く、優しい声。 『和彦(かずひこ)さん……俺も……』  愛してる。ずっと……。でも……さよなら……。  頬を伝う冷たい感触で目が覚めた。  夢の中では、温かい指が涙を拭ってくれたのに。 「和彦……さん……」  愛しい人の名前を呟いてみる。  分かってた。いつかこんな日が来ること。あの人は俺のそばにずっといてくれるわけじゃないってこと。 「う……っ……」  顔を両手で覆って、布団の中で胎児のように丸くなる。涙が後から後から溢れてくる。  こんなにもまだ好きなのに。いつかは忘れられるのだろうか。いつか、懐かしく思い出す日々が来るのだろうか。
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