7・久坂サイド

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 そこには長い髪を揺らして佇んでいる一人の女の子がいた。 「久しぶり」  そう言ってはにかみながら微笑む。一言で言って可愛い。大きな瞳が真っ直ぐ尾形を見つめている。 「井上……うわあ、久しぶり。元気? なんか雰囲気変わったなあ」 「ふふ、そうかな」 「うんうん、可愛くなった。――あ、いや高校の頃も可愛かったけどっ」  そういう素直に言葉に出すのは、尾形らしいよな。そう思って見てたら、 「尾形くん、変わってないね」  と、またニッコリ彼女が微笑む。そこでようやく尾形は俺のことを思い出したように、 「あ、すみません。先輩、彼女、同級生で……バスケ部のマネージャーしてた井上さんです」 「……久坂先輩?」 「え、分かる?」 「うん。――先輩もご無沙汰してます」  ペコリ、と頭を下げる井上さんに、俺も思わず同じ動作で返す。……彼女のことは覚えてる。いつも尾形ばかり見てたから。俺が尾形と居残り練習とかしてる時たいてい彼女も残ってたし。……当の本人は全く気づいてなかったけど。 「久坂先輩と連絡とってたんだ」 「いや、それが就職先でバッタリ再会して……今オレの上司」 「そうなんだ。すごい偶然!」 「井上も母校の応援?」 「それもあるけど……弟が出場してたから」 「マジで! どこの学校?」  そこへ遠くから、おーいと杉下が手を振りながらかけて来た。 「尾形、よかったら後で飯食いに……ってあれ? 井上?」 「杉下くん」 「うわ~井上? 何、なんかキレイになっちゃって~!」 「やだなあ、そんなことないよ」  長い髪を耳にかけながら、井上さんが照れ臭そうに笑う。  二十歳前後は女の子が一番変わる時期だもんな。久々に会うと余計にそう思うよな。実際可愛いし。  同級生の思い出話の輪に入れず、さっきのチクチクした心も修正できず、俺はシャツの裾をぎゅっと握りしめた。  尾形の袖をそっと引いて、こっちを向かせた。 「今日は、ありがとな。楽しかった」 「先輩?」 「じゃあまた、会社でな」 「先輩っ!? 一緒にメシ食いに行きませんか?」 「今日は三人で楽しめよ。じゃあな」  尾形に軽く手を上げ、後の二人にも精一杯の笑顔を向ける。大人げない。そう思うが、今、こいつらと一緒にいたくない。  尾形が呼び止める声が聞こえたが、聞こえない振りをして俺は足早にその場を去った。
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