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そこには長い髪を揺らして佇んでいる一人の女の子がいた。
「久しぶり」
そう言ってはにかみながら微笑む。一言で言って可愛い。大きな瞳が真っ直ぐ尾形を見つめている。
「井上……うわあ、久しぶり。元気? なんか雰囲気変わったなあ」
「ふふ、そうかな」
「うんうん、可愛くなった。――あ、いや高校の頃も可愛かったけどっ」
そういう素直に言葉に出すのは、尾形らしいよな。そう思って見てたら、
「尾形くん、変わってないね」
と、またニッコリ彼女が微笑む。そこでようやく尾形は俺のことを思い出したように、
「あ、すみません。先輩、彼女、同級生で……バスケ部のマネージャーしてた井上さんです」
「……久坂先輩?」
「え、分かる?」
「うん。――先輩もご無沙汰してます」
ペコリ、と頭を下げる井上さんに、俺も思わず同じ動作で返す。……彼女のことは覚えてる。いつも尾形ばかり見てたから。俺が尾形と居残り練習とかしてる時たいてい彼女も残ってたし。……当の本人は全く気づいてなかったけど。
「久坂先輩と連絡とってたんだ」
「いや、それが就職先でバッタリ再会して……今オレの上司」
「そうなんだ。すごい偶然!」
「井上も母校の応援?」
「それもあるけど……弟が出場してたから」
「マジで! どこの学校?」
そこへ遠くから、おーいと杉下が手を振りながらかけて来た。
「尾形、よかったら後で飯食いに……ってあれ? 井上?」
「杉下くん」
「うわ~井上? 何、なんかキレイになっちゃって~!」
「やだなあ、そんなことないよ」
長い髪を耳にかけながら、井上さんが照れ臭そうに笑う。
二十歳前後は女の子が一番変わる時期だもんな。久々に会うと余計にそう思うよな。実際可愛いし。
同級生の思い出話の輪に入れず、さっきのチクチクした心も修正できず、俺はシャツの裾をぎゅっと握りしめた。
尾形の袖をそっと引いて、こっちを向かせた。
「今日は、ありがとな。楽しかった」
「先輩?」
「じゃあまた、会社でな」
「先輩っ!? 一緒にメシ食いに行きませんか?」
「今日は三人で楽しめよ。じゃあな」
尾形に軽く手を上げ、後の二人にも精一杯の笑顔を向ける。大人げない。そう思うが、今、こいつらと一緒にいたくない。
尾形が呼び止める声が聞こえたが、聞こえない振りをして俺は足早にその場を去った。
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