10・尾形サイド

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 と、何気に仰ぐと、頬を真っ赤に染めた先輩がいた。 「わ……悪いか」  怒ったように、つん、とそっぽを向いてしまう。いや、悪いって言うかなんと言うか……可愛い。  何だこれ。可愛いすぎる。抱きしめて頭をくしゃくしゃにしたいくらい可愛い。 「全然悪くないですよ! オレも気になってたんですよね。どんな話なんですか?」  オレが食いついてきたので気をよくしたのか、ちらっとこっちを向いた顔が、まだ警戒を解いてないけど興味はあるんだよね的な猫みたいで……めっちゃ可愛い。  そうか、先輩って可愛いんだな。可愛くて……綺麗で。  バスケの試合見に行ったときから思ってたけど、改めてそう思う。  車の中で懸命に漫画の内容を語る先輩に相槌を打ちながら、オレはいいことを思いついた。 「あ、じゃあその映画、一緒に行きません?」    ***  私服姿の先輩は、いつもよりいっそう若く見える。ジーンズに薄手のコートを羽織って、足元はスニーカー。こないだも思ったけど、下手すると高校生で通用するかもしれない。  写真を撮りたい衝動を押さえて、せめて目に焼き付けようと頭の先から爪先までじろじろ見ていたら、 「……何だよ」  またまた不審がられた。いやだって…先輩が可愛いから。なんでこんなに可愛く見えるんだろう。 「――ほら、行くぞ」  映画なんて久しぶりだ。学生の頃はデートでよく来てたかな……。  身長が伸びてからやたら告白されるようになった。来るもの拒まず、去るもの追わずと言った感じで、何人かと付き合ったけど……。  ただ背が伸びただけで、中身は何も変わってないのに、周りの見る目が変わっていくのにすごく戸惑った。戸惑ったまま、恋愛ってこんなもんかと思ってた。
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