10・尾形サイド

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   全く予備知識がないオレに、パンフを開いて一生懸命、人物相関やあらすじを語る先輩を見ていると、「愛おしい」ってこんな感情なのかなと思う。先輩には、こんな風に笑っててほしい。できれば、オレの隣で。  映画の後も、その後入った喫茶店でも、居酒屋でも、先輩は興奮がおさまらないようだった。 「あ~もっかい見てえ~」  酔いを覚まそうと近くの公園で夜景をのぞみながら、先輩はおもいっきり伸びをした。 「よかったですね。期待を裏切られなくて」  そう言ってにっこり笑うと、先輩は急に真面目な顔になってオレを見た。 「先輩?」 「お前…今日大丈夫だったか? その…結局一日、俺の趣味に付き合ってもらって…その」 「全然。先輩にいろいろ解説してもらえて楽しかったですよ。今度原作貸してくださいね」 「そっか」  安心したように、満面の笑み。それがオレの心臓を貫いた。  ああ、そうか。今分かった。 「さ、そろそろ帰るか…」 「――先輩」  ん? と振り返った先輩の背後に夜景の明かりが煌めいている。 「オレ、先輩のこと好きです」    ***  ――先輩に告白した。  あの時はっきり分かった。オレは先輩に恋していたんだ。だからあんなに先輩のこと可愛く見えたんだ。  こないだ、車の中で眠ってる先輩に触れたときも。……本当は、あのままキスしたかった。  自分の気持ちに名前がついて、すっきりした気分だ。  でも先輩は……。 『うん、ありがとな』  ――あれ、絶対違うよな。絶対、普通の先輩後輩としての好きだと思ってるよな。  でもオレも怖くて、そのまま流してしまった。  自分でも止められなかった。気づいたら、言葉はするりとこぼれだしていた。  先輩は……今傷ついてる。  かえってよかったかもしれない。今、先輩を煩わせたくない。  『好き』と自覚すると、先輩の何もかもが可愛く見えて仕方ない。
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