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全く予備知識がないオレに、パンフを開いて一生懸命、人物相関やあらすじを語る先輩を見ていると、「愛おしい」ってこんな感情なのかなと思う。先輩には、こんな風に笑っててほしい。できれば、オレの隣で。
映画の後も、その後入った喫茶店でも、居酒屋でも、先輩は興奮がおさまらないようだった。
「あ~もっかい見てえ~」
酔いを覚まそうと近くの公園で夜景をのぞみながら、先輩はおもいっきり伸びをした。
「よかったですね。期待を裏切られなくて」
そう言ってにっこり笑うと、先輩は急に真面目な顔になってオレを見た。
「先輩?」
「お前…今日大丈夫だったか? その…結局一日、俺の趣味に付き合ってもらって…その」
「全然。先輩にいろいろ解説してもらえて楽しかったですよ。今度原作貸してくださいね」
「そっか」
安心したように、満面の笑み。それがオレの心臓を貫いた。
ああ、そうか。今分かった。
「さ、そろそろ帰るか…」
「――先輩」
ん? と振り返った先輩の背後に夜景の明かりが煌めいている。
「オレ、先輩のこと好きです」
***
――先輩に告白した。
あの時はっきり分かった。オレは先輩に恋していたんだ。だからあんなに先輩のこと可愛く見えたんだ。
こないだ、車の中で眠ってる先輩に触れたときも。……本当は、あのままキスしたかった。
自分の気持ちに名前がついて、すっきりした気分だ。
でも先輩は……。
『うん、ありがとな』
――あれ、絶対違うよな。絶対、普通の先輩後輩としての好きだと思ってるよな。
でもオレも怖くて、そのまま流してしまった。
自分でも止められなかった。気づいたら、言葉はするりとこぼれだしていた。
先輩は……今傷ついてる。
かえってよかったかもしれない。今、先輩を煩わせたくない。
『好き』と自覚すると、先輩の何もかもが可愛く見えて仕方ない。
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