10・尾形サイド

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 いつも先輩のことを考えている。朝起きて、先輩もう起きたかなとか、寝る前にも心の中で先輩おやすみなさいと呟いてみたり。そしてとうとう、夢にまで……しかもあられもない姿で。  あれだな、昨夜男同士ってどうやるんだろうとネット検索したのがまずかったんだな。ていうかそんなの検索してる時点でもう終わってる気がする。  パソコンの画面にすごい画像がバンバン飛び出してきて、先輩と沢村さんも……と思ったらムカムカしてきて――画面を閉じた。  重症だ。先輩のことをそういう意味で「好き」だと認識してから、ずっとこんなカンジだ。  朝の雑踏の中を、ヨロヨロと歩く。ああ……太陽が眩しい。今日も先輩と一緒だな。嬉しい。嬉しいけど……。 「おっす」  後ろからいきなり肩を叩かれてビクッとした。 「うわっ」  振り返ると当の久坂先輩が怪訝そうにオレを見ていた。 「何だよ……そんなに強かったか?」 「いえっ、そんなこと……おはようございます」  慌ててペコンと頭を下げる。目は逸らしたままだ。とてもじゃないが、あんな夢見た後じゃ、まともに顔を合わせられない。 「? なんか調子悪いか?」  心配してくれてるのか、眉を寄せてオレの顔をのぞきこんでくる。  すみませんそうじゃないんですただ後ろめたくて顔が見れないんです。ほんとは先輩のご尊顔拝みたくてたまんないです! 「大丈夫です! ちょっと、寝不足なだけで……」 「そうか? じゃあ今日は早めに寝ろよ」 「は、はいっ」  ちょうど来たエレベーターに二人して乗り込む。後からどんどん人が乗り込んできて、奥へと押され、先輩を壁に押しやる形になってしまう。  あ、これって……いわゆる壁ドンだな。  ふわりと甘い香りが漂う。先輩のシャンプーの匂いかな。  朝のエレベーターはほぼ各駅停車で、オレ達の事務所のある十階にはなかなか到達しない。  目の前には先輩の横顔。ちょっと首を傾げたら、耳にキスできそう……って、何考えてんだオレは!  やっとエレベーターから降りることができて、オレはそっとため息をついた。毎日こんなんだったらオレ、身が持たないな。 「おい、行くぞ。……何やってんだ?」  手の平で顔を覆ったオレを見て、やっぱり具合悪いのか? と真剣な顔で聞いてくるのを 「大丈夫ですっ」  とムリヤリ笑顔で取り繕った。  ふうん、と納得したのかしてないのかわからない呟きを残し、先輩は歩き出す。  深呼吸、深呼吸。大丈夫オレは平静だ。  そしてオレもその後ろ姿を見つめながら足を踏み出した。
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