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3・久坂サイド
「はあ……」
コーヒーの紙コップを片手に窓に寄りかかってため息をつく。外は初夏の眩しい太陽がきらきら輝いている。思わず目を伏せる。
さいわい、昼休みの休憩室には人気はなく、自販機の機械音だけが静かに空間を満たしている。
眼下に小さく見える人々の流れを見ていると、皆幸せそうに見えて、世界で一番自分が不幸な気がして。……またため息が出る。
「お疲れね、久坂くん」
いきなり後ろから声をかけられてびくりと肩が震えた。
「望さん……」
同じく紙コップから香ばしい匂いを漂わせながら、同じ部署の紅一点――前嶋望さんが立っていた。
「まあ、仕方ないか。元気出せって方が無理よね」
そう言って俺の隣にあったスツールに腰かける。
望さんは社内で唯一、いや社外含めてか、事情を知る人間だ。ある場所で偶然会って、不倫仲間だと発覚してから、お互い愚痴ったり慰めあったりする仲になった。望さんは自分から別れを告げたと言う。
「……頑張ったよね」
「……ありがとうごさいます」
「しばらくはね、仕方ないよ。でも絶対、時間が解決してくれるから。大丈夫よ」
「……はい……」
望さんは誰もいないのを確認してから、よしよしと頭を撫でてくれた。
望さんはすごい、と思う。
きっと俺みたいに辛かったと思うのに。相手を想って自分から別れを告げて。望さんを見ていると、俺ばっかりうじうじしているのが恥ずかしくなってきた。
「もしぶちまけたくなったら、私でよければ話聞くから。いつでも言ってね」
「はい……ありがとうごさいます」
ぺこりと頭を下げる。望さんがいてくれて本当に心強い。この恋の始まりから終わりまで、ずっと見守ってくれたひと。
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