第1章:陸(おか)の赤き姫と、海の青き人魚(2-1)

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第1章:陸(おか)の赤き姫と、海の青き人魚(2-1)

 エレフセリアは、セオドア大陸の南半島に位置する、小さな王国だ。海で採れる魚介類は豊富で民の腹を満たし、養殖した真珠を大陸内外の貿易で売りさばく事で、小国でありながらも他国が無視出来ない国益を得ている。東西と南、国土の三方を穏やかなアリトラ海に囲まれ、北は同盟国であるディケオスニ王国と国境を接する。国土こそ狭いものの、友好国と自然に護られている為、建国五百年来、外つ国の侵略を許した事は無い。  その王宮は、南のわだつみを臨む高台の上に建てられている。南方でありながら湿度が低いとはいえ、単純に気温の高い環境を、少しでも快適に過ごす為、王宮は通気性が良く傷みにくい木材を組んで編み上げられた。ともすれば単なる「大きな平屋のお屋敷」に見えかねない。  だがこれは、王宮の場所をここに定めた時の王が、 『民と離れすぎた生活をしてはならない。それは民の心との乖離を招く』  と、質素な暮らしを王族にも課した為である。ゆえにエレフセリアの代々の王族は、民と同じ素材の王宮で暮らし、民が口に入れるのと同じ魚をその日の食卓にあげ、時に民の間に降りてその意見を聞き、国政に反映させた。民はそんな王族を慕い、彼らの謙虚さを讃え、敬うべき人々がそこまで遠慮する必要は無いのだと口を揃えて言う。むしろもっと王族らしい生活を、と直訴に至った事さえあると、史書は記している。  その王宮の入口を、ファディムと共にくぐったアイビスを出迎えたのは、彼女の瞳と同じ赤を持つ、敵意を込めた視線だった。 「またアホウドリみたいにフラフラ飛んでたの? 馬鹿妹」  辛辣な悪口に、アイビスは目をみはって立ち止まる。隣のファディムもたちまち、それまでの穏やかな笑顔が嘘のように萎縮した。
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