第1章 当たり前の幸せ

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「ねぇ、慎太郎?」 「何?」 「慎太郎、ミントタブを持ち歩いてるんだね?」  玄関のドアを閉めながら、優は何げなくオレに聞いた。 「なんで分かったの?」 「あ、いや、スーツ持ってくる時、ポケットから落としちゃって」 「ああ、ごめんごめん。入れっぱなしだったから。色々サンキュー」  小走りで二人で並んで走って駅に向かう。すると優の顔がなんとも言えない複雑な顔になっていた。オレのせいで遅刻しそうだから? 「あのさ、慎太郎」 「何?」 「なんで、ミントタブなんか持ってるの?」  訳を聞かれてオレは戸惑ってしまう。本当の理由は優に不意打ちでキスされても、変な匂いがしないように、と持ち歩いているわけで。 「いいじゃん、別に」  そっけなく返事をしてしまった。 「ふーん。慎太郎、息とか気にしたりするんだ?」  なんだかやけに今日の優は絡んでくるような気がした。 「……慎太郎、最近後輩たちからよく慕われるようになったよね」
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