3人が本棚に入れています
本棚に追加
私と家族は、保健所に来ていた。
「どうぞ、好きな子を選んでください。」
押し込められている動物たちをぐるりと見回す。
体の大きさにあわない檻の中でぐったりしている犬。
「どうするの?マオ。今日はやめとく?」
私たちがこの保健所に来た理由は、溺愛していた子犬のジロが死んでしまったからだ。
それも、ソファーのしたに挟まり窒息死。
ジロの冷たい体が、心の奥まで染み込んでいくようだった。
マオは三日三晩部屋から出てこなく、もはや泣く気力もない。
そんなマオを見かねて家族は
「保健所に行こう。」
と誘った。
しかしマオは
─ジロは諦めて、代わりの犬にしろって言いたいの?ジロの代わりなんて、いらない。
だが、家族のしつこいほどの誘いに呆れ、保健所に来たのだった。
「うん、今日はもういい。帰る。」
檻に背を向け、歩き出す。
保健所の人は母に何か耳打ちしていた。
すると─
「きゃん!」
真っ黒なもふもふの塊が駆け寄ってきた。
「わふ、わふ!くぅぅん...わん!」
マオのズボンを爪でカリカリしている。
思わず抱き上げ、クリクリの目を見つめた。
「ねぇ?マオ。こんなことは言いたくないけれど...ジロの意思をこの子に受け継いでもらいましょうよ。」
だが、この子犬はジロと真反対の容姿だった。
真っ白だったジロに対し、この子は真っ黒。
「あのね、ジロの代わりはいらないの。」
そのとき、もう一匹の犬も駆け寄ってきた。
その犬は真っ白な毛。つぶらな瞳。
ジロにそっくりだった。
「ジロ...!」
「白い子と黒い子は兄弟なんですよ。」
「どっちにするの?選びなさい。
別に、他の子でもいいけれど。」
すっかり機嫌が悪くなった母はそう吐き捨てた。
─なんで選ばなきゃいけないの。
私の選択で、この子達の人生が決まる。
そう...ジロのように可哀想な死に方をするかもしれない。
「選べないよ!無理に飼わなくてもいいでしょ!?もう放っておいてよ!」
バタン!!
子犬達を置いて家へ帰る道を走った。
風が心に吹き付ける。
─ジロのお墓に行こうかな...
「わん!」
チャッチャッチャ...
走ってくる音が聞こえるほうを向くと、
あの黒い子犬だった。
「...なに?私はあなたに用はないよ。
あなたにジロの代わりは求めたくない。
─帰りな。」
プップー
車のクラクションがなり、窓が開いた。
「マオ!その子と車に乗りなさい!」
最初のコメントを投稿しよう!