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夢
夢を見た。
そう言ったのは誰だったか。
誰からともなく、メサイアのメンバーが口々に言い出した。夢を見た、と。
真っ赤な果実を食べる夢。リンゴだったり、ザクロだったり、イチゴだったり。何にせよ真っ赤な果物だったと、彼らは言う。
血のように? いや、違う。燃える炎、それも違う。
見たことがないほどに、美しく輝く真紅だ。
「命の炎、愛の色だよ。」
いつまでも聞いていたいと思わせる、心地好い低い声が言った。
とても美しい男、だったような気がする。
夢を見た、と言う彼らが口を揃える。美しい男(多分)が、真っ赤な果実を差し出して、
「食べると良い。」
そう囁いたのだと。
異変はそれからだ。異変? 異変と言っていいはずだ。真っ赤な果実を食べた彼ら(正確には夢の中でその果実を食べた彼ら)は、目覚めた時には変身していた。
体が在るよう、な、無いような。見た目は変わらぬのに、体の感覚が今までと違うのだと言う。表現しがたい力に満ち溢れているのだとも、言っていた。
そうして、何よりこれが1番大事なことだが、天使たちと互角に渡り合えるようになっていたのだ。
人々は考察する。天使と対峙するにあたって、最大のネックは肉体だったのではないかと。だが正解を教えてくれる者はいない。あの、真っ赤な果実をくれた男は、いつでも一方的でこちらからは問いかけることもできないのだった。
なんにしても、この時を以て人類は天使と同じ土俵に上がったのだ。
…戦争が、始まった。
必然だろう。悲願だった天使への反撃手段が手に入ったのだ。
彼らは嬉々として前線に行く。なぜって? 他の誰にもなし得なかった、天使を打ち破るという事ができるからだ。
選ばれた者としての優越感が、彼らを戦場へと駆り立てる。
何より、もう負け戦にはならぬのだ。これで戦場に行かなくてどうすると言うのだ。
…いいかい?
ここまでがお復習だ。
と、先生が言った。
ここは地下街(メサイアが天使に対抗できるようになったとは言え、それでもまだまだ地上は危険だった)にある学校。
人口激減と環境変化も相俟って、学校の制度も変化していた。
今、僕が受けているのは現代史だ。
まともに機能していない社会で、どれほどのイミがあるのか僕には分からないけれど。それとも、いつの日にか地上に帰れると言うのだろうか。
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