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双子
退屈な日が、いつ終わりを告げるのか。危険と隣り合わせの日々が、いつ平和になるのか。
誰にも分からない。
ところで、勇者ってのは、いつ、どこに生まれるんだ?
誰かが言った。
それは、みんなの疑問でもあった。
夢の中で、勇者の予言を聞いたのは一人だけじゃない。だけど、あの夢から何年経った? まだ、それらしき赤ん坊が生まれたなんて風の噂にも流れてこない。
天使が天使じゃなくなってから、どれほどの時間が過ぎた?
おかげで人々は地上に戻れた。それでも神サマとやらが何を考えているのかは、誰にも分からないままだ。
…もしかしたら、あの惨劇はただ食い意地の張った天使の暴走だったのかも?
核で全てが消えていなくなってしまう前に、食べ尽くしてしまえとばかりに。
「なあなあ、勇者ってどんなヤツなのかな?」
少年は言った。
町の中心にある広場、その芝生の上に瓜二つの顔立ちの少年が二人寝転んでいた。上気した頬が、つい先程まで元気よく遊び回っていただろう事をうかがわせる。
「またその話かよ。」
うんざりしたように、もう一人の少年が言う。空は青く、爽やかな風が二人の頬を撫でていく。いつもと変わらない日常。退屈と紙一重の。
それでも、町の外には危険が溢れている。怪物に身を堕とした天使どもが、徘徊しているのだから。町の中にいることで、メサイアに保護して貰えるのだ。
「だってなあ、おれも外に出てみたいんだ。」
「…まあ、分かるけどさ。」
元気の有り余る少年たちには、塀に囲われた町は狭すぎた。
良く似た二人の少年、カインとアベルは双子の兄弟だ。狭い町のなかを縦横無尽に駆け巡っては、時々外の世界に思いを馳せる。
「兄ちゃん、どうしてるかなー。」
アベルは空を向こうを見詰めて呟いた。彼らにはもう一人、兄がいる。年が離れたその兄は16才の時に夢を見て、そうしてメサイアの一人になった。
「…そうだな。元気だといいな。」
メサイアのメンバーにさえなれば、外に出られる。というよりは、外にでなくてはならない。怪物狩りは彼らの重要な任務でもある。
任務内容や任務地は、組織が決める。カインとアベルの兄は、討伐隊に編成されているので故郷へは滅多に帰ってこない。怪物を討伐するために各地を転々と回っている。
「おれも、兄ちゃんみたいにメサイアになりてーな!」
「夢を見れなきゃ、なれねーだろ。」
「そーなんだよなー。夢、おれも見たいなー。」
「そうだな。」
何度か、二人で町の外に出て冒険してみようと試みた。その度に、なぜかメサイアに見付かってこっぴどく叱られるのだ。それでも、外の世界は諦めきれない魅力を放ったまま。阻止される度に二人の外の世界を求める気持ちは膨らむのだった。
閉じられた世界は、平穏だった。
故に、少年たちには窮屈な毎日でしかなかった。カインとアベルのように町の外に出ようと画策まではしなくても、閉ざされた門の外を夢見ていた。
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