双子

1/1

4人が本棚に入れています
本棚に追加
/60ページ

双子

退屈な日が、いつ終わりを告げるのか。危険と隣り合わせの日々が、いつ平和になるのか。 誰にも分からない。 ところで、勇者ってのは、いつ、どこに生まれるんだ? 誰かが言った。 それは、みんなの疑問でもあった。 夢の中で、勇者の予言を聞いたのは一人だけじゃない。だけど、あの夢から何年経った? まだ、それらしき赤ん坊が生まれたなんて風の噂にも流れてこない。 天使が天使じゃなくなってから、どれほどの時間が過ぎた? おかげで人々は地上に戻れた。それでも神サマとやらが何を考えているのかは、誰にも分からないままだ。 …もしかしたら、あの惨劇はただ食い意地の張った天使の暴走だったのかも? 核で全てが消えていなくなってしまう前に、食べ尽くしてしまえとばかりに。 「なあなあ、勇者ってどんなヤツなのかな?」 少年は言った。 町の中心にある広場、その芝生の上に瓜二つの顔立ちの少年が二人寝転んでいた。上気した頬が、つい先程まで元気よく遊び回っていただろう事をうかがわせる。 「またその話かよ。」 うんざりしたように、もう一人の少年が言う。空は青く、爽やかな風が二人の頬を撫でていく。いつもと変わらない日常。退屈と紙一重の。 それでも、町の外には危険が溢れている。怪物に身を堕とした天使どもが、徘徊しているのだから。町の中にいることで、メサイアに保護して貰えるのだ。 「だってなあ、おれも外に出てみたいんだ。」 「…まあ、分かるけどさ。」 元気の有り余る少年たちには、塀に囲われた町は狭すぎた。 良く似た二人の少年、カインとアベルは双子の兄弟だ。狭い町のなかを縦横無尽に駆け巡っては、時々外の世界に思いを馳せる。 「兄ちゃん、どうしてるかなー。」 アベルは空を向こうを見詰めて呟いた。彼らにはもう一人、兄がいる。年が離れたその兄は16才の時に夢を見て、そうしてメサイアの一人になった。 「…そうだな。元気だといいな。」 メサイアのメンバーにさえなれば、外に出られる。というよりは、外にでなくてはならない。怪物狩りは彼らの重要な任務でもある。 任務内容や任務地は、組織が決める。カインとアベルの兄は、討伐隊に編成されているので故郷へは滅多に帰ってこない。怪物を討伐するために各地を転々と回っている。 「おれも、兄ちゃんみたいにメサイアになりてーな!」 「夢を見れなきゃ、なれねーだろ。」 「そーなんだよなー。夢、おれも見たいなー。」 「そうだな。」 何度か、二人で町の外に出て冒険してみようと試みた。その度に、なぜかメサイアに見付かってこっぴどく叱られるのだ。それでも、外の世界は諦めきれない魅力を放ったまま。阻止される度に二人の外の世界を求める気持ちは膨らむのだった。 閉じられた世界は、平穏だった。 故に、少年たちには窮屈な毎日でしかなかった。カインとアベルのように町の外に出ようと画策まではしなくても、閉ざされた門の外を夢見ていた。
/60ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加