それ以上でも、以下でもない

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みつこ。それは俺の幼馴染みの名前だ。 幼馴染みと言えば何かしらの特別な関係を想像される事が多い。けれど俺にとっては言葉通り、それ以上でも以下でもない。 母親同士の仲が非常に良かったからマンションの廊下で、近所の公園で、スーパーの帰り道で。寄れば触れば互いの口はモーターを高速回転させるが如くの動きを見せた。初めこそその長過ぎるお喋りにうんざりしていたけれど、時間が経つにつれてよく毎回毎回話す事が尽きないなぁと感心するようになった。 関係性で言えば恋人のような母親達に対して、俺とみつこは長年を共にした夫婦のようだった。 察して貰えると助かるが決して仲睦まじいという意味合いではない。言葉で表すならば時間を経て互いへの興味を失くした、けれども切り離せない。味のしなくなったガムを噛み続ける行為に似ていた。 加えてみつこは極端に口数が少なく、いつも俯いて歩く子供だった。一緒に遊んでいなさいと言われても、そもそも喋ろうとしないみつこにコミュニティを築く能力は皆無だ。共有出来る遊びは見付からない。同い年なのに随分体の小さいみつこは時々弱々しい捨て犬のように見えた。俺が彼女に声を掛ける事をやめなかったのは、それが原因だろうか。 「みつこ、ブランコ乗るか?」 「砂遊びは?道具は他の友達から借りてくるからさ」 「…外が嫌なら家に帰るか?母さんに言ってくるから」 答えがないから自分で判断するしかない。母親達の方へ体を向けた俺の手はしかし、小さな力に引き止められた。拒否(ノー)。家には帰らない。やっとみつこの反応が得られたけれど分かったのはそれだけで、再びみつこはだんまりを決め込んでしまう。 「たけふみ、サッカーしようぜ!」 離れた場所から同じもも組のはやと君が呼んでいる。みつこはちらりとはやと君の方へ目をやって、数秒した後ふいと逸らした。行っても良いと言うように、みつこは砂場の奥にある花壇の方へ一人歩いていく。 「…みつこ!公園から出るなよ。帰る時は一緒だからな」 みつこは後ろ向きのまま、頷くような微妙な角度で首を傾ける。 口下手で、何を考えているか分からなくて、暗い。それでも俺の言う事を無視して勝手にいなくなったりする事は、一度もなかった。
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