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「岳史!ちょっとそっち持って!」
「…だから業者頼めば良いって言っただろ」
「男なんだからぐちぐち言わないでよ!あとでお礼はするから良いでしょ」
お前も男だろと呟くと一気に腕の負荷が増した。無事にテーブルが着地した所でふぅと息を吐いた隼人がそれで?と首を傾げる。
「結局その子はどうしたのよ?音信不通?」
「いや…」
続けようとした言葉を遮るようにインターホンが鳴らされる。
「こんにちは、芦原フラワーマーケットです!お花のお届けにあがりました」
扉を開ければ柔らかな香りがふわりと広がる。ラッピングペーパーとリボンで飾られたカーネーションとバラの花束が差し出された。髪を一つに結えた女性の目が驚くように見開かれている。
「…ご注文のお品物、お間違いないでしょうか?」
「ええ、間違いない。お任せして良かったです。…俺の幼馴染みも花が大好きなんです。ほとんど喋らない子だったんで本人から聞いた訳じゃないんですけどね。高校生の時偶然見ちゃったんですよ。通学カバンに分厚いファイルが入っていて、中身は綺麗にラミネートされた押し花と文字がびっしり。花のデータブックと日記を合わせたようなもので、普段喋らない彼女のものとは思えないくらい沢山の言葉が並んでいてびっくりしたものです」
「ちょっと、変わった方なんですね」
女性は困惑したように微笑む。俺は構わず言葉を続けた。
「ええ、ちょっとだけ変わってるんです。あの子は昔からずっと。口下手で、何を考えているか分からなくて…だけど花が大好きな、可愛い子なんです」
俺は受け取った花束を女性に差し出した。
『好きな人に渡したいんです』そうオーダーした花がフリルのように華やかに揺れる。
「…押し花にしても綺麗ですよ。私、得意なんです」
耳を真っ赤に染める彼女の名前はみつこ。俺の幼馴染みで、それ以上でも以下でもない。そう思っていたけれど。
今はそれ以上の関係になる事を、願っている。
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