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梅雨の合間のある晴れた日。
私――星乃杏奈は、12歳年上の従兄・一宮颯手と京都市動物園に来ていた。
「見て、颯手!キリンが餌を食べてるわ」
背の高いキリンが、キリン舎で餌を食べている姿を目にし、私は颯手の隣から駆け出した。
キリン舎の一部はガラス張りになっていて、間近で動物が観察出来るようになっている。その壁の上部に餌かごが付いていて、草が入れられていた。
駆け寄って上を見上げてみると、餌かごの下もガラス張りで、草を咀嚼するキリンの口元がよく見える。
「可愛い」
こんな角度からキリンを見たことはないので、興味深く眺めていたら、近づいて来た颯手が、くすりと笑った。
「杏奈、子供みたい」
「ええっ?子供?」
ぷうっと頬を膨らませる。子供みたいだなんて、聞き捨てならない。
(大人っぽくなろうと頑張っているのに)
颯手は従兄であると同時に、わたしの恋人でもある。年上の彼の隣に立っても似合うように、精一杯、背伸びをしているというのに。
「キリンはもういい」
頬を膨らませたままキリン舎の前を離れたら、
「かんにん。拗ねんといて」
颯手が追いかけて来て謝った。でも顔はまだ笑っている。
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