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「動物園の近くに京都府立図書館もあるし、帰りはそこで本を借りて帰るのが定番やってん」
「へええ……。ねえ、颯手はどの動物が好きだったの?」
「そうやなぁ、どの動物というか『おとぎの国』が好きやったかな」
「『おとぎの国』?」
「家畜・愛玩動物コーナーや。ヤギや羊やうさぎがいるねん」
男の子が好きそうな猛獣ではなかったことが意外だ。
「時間が来たら、うさぎを抱かせてもらえたりしたんやで。今もあるんかな」
颯手が首を傾げたので、
「ええと、ちょっと待ってね」
わたしはハンドバッグにつっこんでいた園内マップをがさがさと広げた。
「あ!あるみたい。後で行きたい」
わたしは颯手にマップを指し示した。『おとぎの国』は、ちょうどキリン舎の向こう側だ。
「テンジクネズミとうさぎが触れるって。テンジクネズミって?」
「モルモットやね。ほんなら、行ってみよか」
「うん!」
園内マップを折り畳み、ハンドバッグにしまう。ウキウキしながら歩を進めていたら、ふいに颯手に右手を取られた。そのまま軽く握りしめられ、ドキッとした。
俄かに頬が熱くなる。
「どうしたん?」
颯手がのぞきこむようにこちらを見て、悪戯っぽい表情を浮かべた。
「な、何でもない……」
わたしは照れ臭くて小さな声で返事をした。颯手と付き合い始めてから、まだ2ヶ月しか経っていない。片想いを続けて7年。こんな風に手を繋げる日が来るとは思わなかった。
(今でもまだ、嘘みたいって思ってる……)
手を繋いだだけで動揺するなんて、余裕が無くて大人っぽくない。わたしは、早くなった鼓動を颯手に悟られないように平静を装いながらも、彼の手をぎゅっと握り返した。
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