Forward, Again

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 彼は、仕事を終えたら同期の連中と見舞いに行く、というようなことを言っていたが、俺は彼に一言礼を告げてすぐに事務所に引き返した。ホワイトボードの「外出」欄に自分の名前を書き殴った。今日は研究日であって外回りの日ではないが、疑問を持つ人間も止める人間もいなかった。俺は仕事着のまま、車を病院に走らせた。  俺としたことが、この時はちょっとしたパニックを起こしていた。俺と出かけていなければこんなことにはならなかったとか、長い距離を走らせたせいで疲れて居眠りしたんじゃないかとか、俺のかけた電話をとろうとして運転を誤ったんじゃないかとか、後悔の念ばかりが浮かんだ。  で、病院の受付でハッと気づいた。病室の番号がわからない、ってね。案の定、総合案内所でRの名前を告げたものの、家族以外の人間には部屋番号は伝えられないという。事前に本人に確認してから来いときた。腹は立ったが、まあ、俺が悪い。  仕方なく、俺は正面玄関を出ようとした。その時だよ。後ろから俺を「主任」と呼ぶ声がした。Rだ。と思って振り向いたんだが、彼女の姿はない。幻聴がここまで来たかと自分に呆れていると、「やっぱり主任だ」という声が前方から聞こえた。目を落とすと、車椅子に乗って両足にギプスをつけた見知らぬ少女。彼女が、俺を呼んだ声の主だった。
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