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「おー」
港へ着き、下船。
ついでと思い、これから世話になる島ということもあり、漁港を軽く見て行こうと思った。
小さな島のわりに、案外大きな漁港だと思った。
近くには市場もあり、荷物を持った観光客や、買い物かごを持った地元の人であふれている。
目ぼしいものもなく、俺はさっそく移動を開始する。
目的は母親の実家であり、俺のこれからの住まいとなる場所だ。
港を出ると、すぐに田舎臭い雑草が鬱蒼と茂った雑木道に出る。
歩いていると、とにかく蚊やカゲロウが顔やら腕の露出しているところに張り付いて非常にやっかいだった。
特にカゲロウの大群に何度も顔を突っ込むのは本当に苦痛でしかなかった。
「あー、くそっ、うぜぇ」
マジでうざい…。
これはこの夏、今まで以上に虫よけスプレーは必須だ。と、心の中で決心した。
あと思ったのは、とにかく車が通らない。
これまで住んでいた本土の市内では絶対にありえない。
市内も決して都会のように栄えてるわけではないが、ここまでの田舎ではない。
何より、港からここまで全くコンビニやスーパーなどのチェーン店はどこにも見えない。
そういえば自動販売機すら見てないような気がする。
(ここの人たちは、いったいどこで買い物しているんだろう)
そんなことを心配してしまう。
才羽島、ここは人口2万人ほどの離島。福島県の日本海沖に存在する、本当に小さな島ということを、この島出身の母親には事前に聞いていた。
何度か来たことはあるが、そこまで多くの情報は知らなかった。
俺が最後に来たのは9年前…じーちゃんの葬式でだ。
小学生だったこともあって、その時の記憶も正直多くは覚えていない。
(それにしても…)
とにかく暑い、暑すぎる。
「…自販機すらねぇのか」
暑すぎて港で買っていた飲み物は既に空になってしまい、ごみを捨てようと思ってもなかなかごみ箱が見つからず、おまけに自販機すら無いという状況だった。
「……」
あたりを見渡しても、自販機どころか民家すらないこの田舎道。
周りには田んぼに、道はアスファルトで舗装はされているが草が道路脇を鬱蒼と生えており、遠くを見ても蜃気楼の先に道が永遠に続いているように見える。
まずい、のどが完全に乾ききっている。
ジリジリと照り付ける太陽も相まって体感温度は外気以上だろう。
いよいよ辛くなってきた…。
「うー…」
滝のように流れる汗を拭きながら、目的の場所を目指して歩く。
知らない土地だ。誰も助けてはくれないのだ…。
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