夏色リフレクション

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「……っ」 いよいよこの夏の暑さに限界が近い…。 とにかくどこかで水分補給をしよう… そう思うが、どこにもそんな給水ポイントはない。 いっそこのまま道のわきを流れる川…、これは田んぼへ水を張るための用水路だ。 タニシやらザリガニやらいろいろ居そうだが…、やむを得ないとすら感じさせてくれる、この夏のこの島での気温。 「……」 ふと、少し先に橋を渡ったところに、自動販売機が見える。 これはやったと思い、少し小走りで自販機へ向かう。 ポケットの小銭入れの中を見、100円を取り出す。 (…う、嘘だろ) なんてこった。水や冷たいお茶はすべて売り切れだった。 残る選択肢はなんと…。 (…コーンポタージュか、豚汁の2択しかないっ!) というか、なぜこの時期にあったかいドリンクがあるんだ。 ツッコんだところで冷たい飲み物に変わるわけはないので、無駄な労力は使わないようにする。 「こうなったら…」 正直どっちでも大して変わらないので、2つ同時押しをしてみる。 ぴ! ほぼ同時になったかのように聞こえるが、わずかに豚汁が早かったのだろう、元気よく豚汁のパッケージが顔をのぞかせる。 「缶が熱い…」 ぷしゅっ。 一口ごくっとのむ。 「……」 …熱いし暑い。 「一体俺はこんなところまで来て何をやってるんだろうか…」 自問自答しつつ、まだ目的地までは遠いので橋の下の木陰で休もうと思った。 水辺も近いことだし、大方涼しいだろうと思い、橋の横にあった階段から橋の下へ降りる。すると…。 ばんっ! 何やら音が聞こえる。 何かをぶつけるような音だ。そして人影がある。 ばんっ!…ポンポン… ボールが転がる音か? 音のほうへ目をやると…。 ばんっ!…ポンポン… 野球のボールだ。ボールが一定間隔で誰かによって橋を支える柱へ投げられている。 ぶつけて練習しているのだろうか。 …顔が見えないので、もう少し近づいてみると 「……」 ちょうど俺と同じ年くらいだろうか、女の子だ。 女の子が野球なんて…いや、ソフトボールか? そうも思ったが、投げているボールはソフトボールのそれのように大きくない。 恐らく、軟式野球ボールだ。 ばんっ!…ポンポン…。 「……ふむ」 女の子は、どう見ても野球をやる格好ではない。 普段着…しかもなかなか際どい丈の、青い透き通ったようなミニスカートタイプのワンピースを着ている。 察せられる通り、このままでは…いろいろとまずい。 (……) 別に俺は男子校とかではないが、普段からスポーツにしか頭になかったためか、そういうのには疎い…のかなと同級生たちを見ていると思う。 投球モーション中の、特に振りかぶるところが本当に目に毒でまずい… 「……?」 どうやらこちらに気が付いたらしい。 そりゃあこんな真っ赤な顔をしていればわかるだろうな…。 「…こんにちは。あなたは?この島の人じゃあ…ないよね?」 そう言い、練習(?)をやめてこちらへ向かってくる。 練習と外気のせいもあり女の子もかなり汗をかいており…なんというか…透けている。 「……ちょっとー?聞いてますぅ?」 「あ……あぁ、うん」 視線が定まらない。見ていいのかいけないのか分からない。 そんな姿が挙動不審に感じたのだろう(そりゃあそうだ)、女の子は俺の心の動揺に気が付いてしまった。 「…あっ、…死ね変態」 「な、そこまで言う必要ないだろう…!見たくて見たわけじゃない!」 すると女の子は 「そこは嘘でも見たかったと言えぇぇええええ!」 バシッ!! 「いったぁぁあああ!」 背中を思いっきりたたかれた。 なんというかこの時点で感じたが、この女はきっと何かと騒々しいタイプだ。 「もう…見たことはいいから、とにかく、あんた誰?」 いいのか? そう思ったが、声に出すとまためんどくさそうなので心のうちに秘めておく。 「藤田光一(ふじたこういち)だ。あんたは?」 そういうと女の子は 「津々浦藍(つつうらあい)よ、この島の人間。あんたは…この島の人じゃなさそうだけど」 そう言いと、肩まで伸びた藍色の髪をかき上げる。 第一印象はうるさい女だったが、俯瞰して見るとかわいく見える。 身長は俺より頭一つ分ぐらい低く見える。160センチくらいだろうか。 「そうだ。俺は今日からこの島に住むことになるから、宜しくな」 「…もしかしてあんた、夏休み明けに転校してくるって子?」 「なんだ、知っていたのか。なら話が早いな。姉妹校の方から、この島の飾北(かざきた)高校へ転校するから…もしかしてあんた、飾北高校の生徒か?」 「もしかしても何も、この島に高校は1個しかないのよ。だから必然的に同級生ね」 それはよかった。これでこの夏休みは「ぼっち」じゃなくてすむ。 そのあともこれで一気に手間が省けたように思う。 「あんた…いや、津々浦さん歳は?」 「17よ。あと、藍でいいわよ。津々浦って言いづらいでしょ?あたしもあんたのこと、光一って呼ぶから、名前でいいわよ」 「助かる。ってことは2年生か?」 「そうね。あんたも見たところ同じぐらいに見えるけど」 「だな。俺も高2だ」
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