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「ところであんた……藍、こんなところで何やってたんだ? 野球なんて…」
あくまで俺個人の意見だが、女の子が野球をするのは珍しく感じていた。
今や女子プロ野球リーグというのもあるぐらいだし、現代では決して珍しいというわけではないのだろうけど、俺の周りには少なくとも野球をやっている女の子は身近いなかったからだ。
「あ~、この島ね、ちょっと変わっていて、野球で町おこしをしているのよ」
「野球で?」
これまた珍しく思う。
昨今は『限界集落』などという言葉があるぐらいだ。地方都市や小さな市町村は、やはり財政的に厳しいものがあるのだろうと思う。
俺は生まれも育ちもずっと都市部の方だった。
別に東京とかの主要都市というではないが、少なくともここよりは確実に発展しているとは思う。
「そう、それでちょっと練習してたの」
「ふーん」
もしかしたら試合に出るのだろうか?
女の子が?偏見とかではないがどうしても先入観で疑ってしまうが、今の俺には関係ない。
そう思い特に気に留めることもなかった。
「…ねえ、なんでこの時期に引っ越してきたの?」
この時期、とは恐らく夏休みになってすぐに引っ越してきたことを言うのだろう。
夏休み明けに転校であれば夏休みは天候前の土地で過ごしてくるのが普通なんだろうな。
時期ももう少し過ぎてから引っ越しをすればいいわけで、2学期はまだ全然先だ。何も急いで引越しをする必要はない。
それは当人の俺ですら思う。
でも、過ごせない…いや、過ごしたくない理由が俺にはあった。
「あ~、いや…ちょっと早めに引っ越して、新しい土地に慣れておこうかな~と」
「…ふーん?怪我をして、それを直すためにこっちに転校してきたって聞いたけど?」
「あ…あぁそうなんだよ。部活でちょっと手をやってな…」
手首をぶらぶらさせる。
そこまで知っていたとは…。
田舎の先生、生徒、さすが情報が早い。
こういうのって田舎の方が早いとは聞いていたが…。
「…そうなんだ」
俺の言葉に納得はしていなさそうだが、聞いちゃいけないと察したのか、すぐに退いてくれた。
別に言いたくないわけではないのだが、初対面で話すこともないだろうと思い少し濁してしまった。
「それより…」
と言うと、藍は近くの木に掛けていたタオルを取り、俺の方へ向きなおす。
「実は、夏休み明けに転校性が来たら歓迎会をしようって島の同世代の子たちと話してたのよ」
「歓迎会…?」
どうやら転校先の学校で歓迎会の催しをしてくれるらしい。
「うーん…まあちょっと早いけど、今日やろうかしら…」
俺が早めに島に来てしまい、さらに藍に出会ってしまったせいで、おそらく計画が狂ってしまったのだろうか。
「あ…いや、お構いなく。俺は別に大丈夫だから」
「違うのよ。あたしが納得しても、あいつらが納得しないとだめなのよ」
あいつらとは、恐らく島の同世代の子たちだろう。
まあ何にせよ、俺がどうこう言えることではないなと思った。
「そうね、じゃあ今夜19時に商店街にある喫茶店、「アルテミス」ってとこに来て」
「わかった」
2つ返事で了承したはいいものの、まだ島に来て間もないため、ちゃんと時間通りに行けるか心配であった。
藍はまだ練習を続けるということで、ここで別れ夜にまた、と約束した。
「……」
(さ…行くか)
時刻は15時を過ぎる頃だった。
まだまだカンカン照りの太陽の下、目的の場所へ向かう。
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