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7月の潮風に乗って、オシロイバナの甘くノスタルジックな香りが訪ねてくる。
夏の香り。
小さな湾に接するこの町の海は穏やかだ。海の上に小さな島々がぽつぽつと浮かんでいる。
田舎の小さな港町。
私、千夜はこの町で生まれ育った、17歳。高校2年生。
――夕弥、遅いなぁ。
教室の窓枠に頬杖をついて海を眺めていると、だんだん瞼が閉じていく。
うつらうつらと舟を漕ぎはじめたとき、コツンと右肩を小突かれて意識が戻った。
「お・き・ろ」
耳元で囁かれる、掠れたハスキーボイス。
目を開けると夕弥が呆れ顔で立っていた。艶やかな黒髪に光る水滴が涼しげだ。私は彼の制服のシャツに顔を埋めて「おはよ」と返事をした。嗅ぎ慣れた汗の匂いがする。
夕弥は私の恋人で、幼馴染で、兄でもある。
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