私のすべて/君のすべて

2/26
24人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
 7月の潮風に乗って、オシロイバナの甘くノスタルジックな香りが訪ねてくる。  夏の香り。  小さな湾に接するこの町の海は穏やかだ。海の上に小さな島々がぽつぽつと浮かんでいる。  田舎の小さな港町。  私、千夜(ちよ)はこの町で生まれ育った、17歳。高校2年生。  ――夕弥(ゆうや)、遅いなぁ。  教室の窓枠に頬杖をついて海を眺めていると、だんだん瞼が閉じていく。  うつらうつらと舟を漕ぎはじめたとき、コツンと右肩を小突かれて意識が戻った。 「お・き・ろ」  耳元で囁かれる、掠れたハスキーボイス。  目を開けると夕弥が呆れ顔で立っていた。艶やかな黒髪に光る水滴が涼しげだ。私は彼の制服のシャツに顔を埋めて「おはよ」と返事をした。嗅ぎ慣れた汗の匂いがする。  夕弥は私の恋人で、幼馴染で、兄でもある。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!