黄梅の君

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 彼女は誰よりも、家柄にふさわしくあろうとなさっていた方だった。それを知っていながらも、私は子どものように駄々をこねた。  そんな私の泣き言を優しくなだめつつ、数日の後に、彼女は学院をやめてしまわれた。  ぽかりと空いた、一組の机。  皆、なんとなく目を向けては、落胆している。やんごとなき家柄にためらい、自ら話しかけることはできなくても、彼女がそこにいるだけで、どこか満たされていたのだ。  先生方もまた、今日はどことなく覇気がないように思う。学院で最も期待を掛けていらした生徒がいなくなってしまったのだから、肩を落とされるのも無理はないだろう。  すべてにおいて模範生でいらした、淑女の鏡のような彼女。〝才色兼備〟を人というものに投影させたらこうなるのかと、感嘆なさる方も多かった。  ふと、目の端に黄梅の花びらが映った。窓ごしではあるが、青空の下、あざやかな色が美しい。  ……彼女は今頃、許嫁の方と共に出港した船の中にいらっしゃるのだろう。  これから先、良き妻、良き母へと、少しずつ大人の階段を上られるのだろう。その繊手を伴侶となられる許嫁の方に預け、長い人生を共に歩まれるのだろう。  『黄梅の君』という呼称のごとく、しとやかに微笑みながら──
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