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「陛下、この花を……覚えておられますか?」
この花には、陛下と私の思い出がある。
もしここでそれを思い出してくれたのなら、何かが変わるかもしれない。
……これは、賭けだ。
「まあ、可愛いお花ですね」
「貴女は黙っていなさい、ルーシェ」
またしても間に入ってこようとしたルーシェを、今回はピシャリと言って黙らせる。
この花に私の人生を賭けたのだ。邪魔はさせない。
「どうですか陛下。この花を見て何か、思い出すことはありませんか?」
口を開かない陛下に、私は再度問いかける。
「…………っ」
陛下の顔色は困窮していた。
それがどんなことを意味するのか、私は頭の中で考える。
本当に覚えていないのならきっと即答するはず。即答せずに困窮するというのは、それ即ち……。
私は瞼を閉じ、この後の回答を静かに待つ。
「……皇后、私は」
「答えを聞かせてください陛下」
答え以外は必要ない。
この花を覚えているか否か、それだけで良いのだ。
それ以外の言葉は、何もいらない。
私の様子を見て逃れられないと思ったのか、陛下は観念して答えを出した。
「……覚えていない」
沈黙から察してはいたものの、その答えは私が求めていたものではない。
私は賭けに、負けた。
「そうですか」
それ以上の言葉は、出てこない。私は陛下の気持ちを受け入れるしかない。
「……すみません陛下。気分がすぐれないので、部屋に下がってもよろしいでしょうか」
その場に崩れ落ちたい気持ちをなんとか持ちこたえさせて、陛下に許しを請う。
陛下は目を合わせてくれないまま、ああ、とだけ答えて了承してくれた。
「では失礼いたします」
ゆっくりとスカートの持ち上げて、陛下に礼をする。
下を向いた隙に表情もちゃんと作り上げる。
相手を射抜く鋭い目つきで、自信に溢れた表情を見せなければならない。
私は皇后として、いつでも凛とした姿を見せなければならないのだから。
私の去り際を気にくわなさそうな表情で見てくるルーシェを横目に、私は会場を後にした。
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