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掌を太陽に……
日の出前でも日の出後でも、
通勤途中に寄る場所がある。
海と山に挟まれた、
海岸通りと呼ばれる道にある。
海側に新しく出来た道は忙しなく、
山側の旧道はのんびりと走れる何時もの道。
ハンドルを握る背中に日差しを背負って、
前を見つめながら昔を思う道のりとなる。
ただ、
この時の思いは二つ天秤に並べている。
良い事も悪い事も、
悲しみも喜びも、
決して釣り合うことはない思いを、
懐かしいBGMを聴きながら、
進む道の上に転がしている。
視界も自身が映すプロジェクターに酔うと、
風の音をかき消す様に騒がしい声がする。
言えない思いと言った後悔の声がする思いの時間は流れていつもの場所に着く。
留まる事を少しだけ許してくれる所、
有難い事にトイレ付き。
地元では憩いの場所になるだろうか?
ボクにとっては日帰りできる旅の途中。
眠くても疲れ切っていても、
ようこそ!の看板が受け入れてくれる。
流れた思いの景色を止める場所、
心の柵の音とは裏腹に、
風の音と鳥の声が聴こえる場所、
トイレも済ませる事が出来る場所、
自然の力でリセット出来る場所に居る。
今が幸か不幸かと思える日々の中、
誰もいない駐車場に停め
この日もトイレを拝借しに車を降りる。
便は済ませて出掛けてきてる、
でもここではまた違う気持ちになる。
早々に入り口へ向かい、
ドアは開けっ放しで迎えてくれる。
観光地の場所らしく、
汚い時はシーズン中。
ここ最近は自粛され、
人混みの形跡もなくキレイなままだ。
毎日平日には訪れている、
監視役ではないが寂しく思う時。
するとどうだろう……
和式便器の中央に黒点がある、
キレイなはずの真ん中に。
よく見るとバタバタと蠢く様子、
得体の知れない昆虫が仰向けだ。
黒点を中心に波紋が拡がる、
そして消える。
用を済ませる事も忘れ、
そっと指を伸ばしそいつを助けてあげた。
そのままじゃあ、
こいつの人生は溺死で終わりだから。
羽が湿ってしまったのか、
しばらくは動かなかった、
そいつをよそ目に用を済ませる。
やがてノソノソ動いている、
良かった、また生きていた。
まだまだこれから、
何週間か何ヶ月かわからない命だが、
もう少し生きてみろよ?
がんばれよ。
ブツブツ独り言を言いながら車へ戻る、
座席に座りドアを閉めてふと思い出す。
人のウィルスを猫に実験した、
ブランド大学の研究所のニュース記事、
人間のために犠牲になる小動物たちを。
さっきの得体の知れない虫も同じ命、
人間からすれば虫ケラだ。
ボクからすれば、
人間のために猫を利用して実験している人間たちの方が虫ケラ以下だ。
そう、ボクにとってはヒトケラだ。
少なからずさっきのボクの言動は、
ヒトケラでないよな?
ボクは人間だけど、
ボクのために動物を犠牲にしない。
心でブツブツ言いながら、
無意識にエンジンを点け、
車を走らせた。
途中まで聴いていたBGMを消し、
窓を開けて風の音が聴きたくなった。
風が顔にぶつかる、
今、
生きている瞬間を感じながら……。
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